◇田井秀一の優駿を訪ねて(3)
東京本社の“馬体派記者”田井秀一(31)が、かつてターフを沸かせた引退名馬の近況を取材する夏の連載企画「田井秀一の優駿を訪ねて」(全4回)。第3回は引退馬協会所属の
タイキフォーチュン(牡31、父
シアトルダンサー2)。北海道新ひだか町の本桐村田牧場で過ごす、同い年の“長老”の元を訪れた。
93年2月9日生まれの31歳。
タイキフォーチュンは100年以上の歴史を誇り、“幻の馬”トキノミノルの生地でもある本桐村田牧場で静かに余生を送っている。サラブレッドの平均寿命は約25年と言われ、フォーチュンは存命のG1優勝馬では最高齢。自らの脚でしっかりと歩み、加齢によって弱ってしまった歯で懸命に牧草をはんでいた。
「自分で歩き回ったり、寝転んだり。食欲もありますし、まだまだ元気いっぱいです」と牧場スタッフの菊地啓志さん。歩きやすい道を自ら選び、段差があれば立ち止まって慎重に完歩を合わせる。「凄く頭がいい馬です。ここでの生活を理解しているので集牧の時間を分かっていますし、馬房に帰りたい時は鳴いて呼んできます。あと、繁殖牝馬で好みの子がいると鳴いたりしますよ(笑い)」
米国生まれの外国産馬で、96年に新設された(外)ダービー・
NHKマイルCの初代王者に。今では大ベテランの鞍上・柴田善も当時はまだ20代。1分32秒6の勝ち時計は04年
キングカメハメハに更新されるまでレースレコードだった。同期は
エアグルーヴ、
ダンスインザダークなど。第2次競馬ブームの余韻で
中央競馬の売り上げが好調だった時期で、根強いファンがいる世代でもある。現在は引退馬協会のフォスターペアレント制度(出資者を募る里親制度)に支えられており、「遠方から見学に来られる方もいますし、沖縄の方から牧草を頂いたこともあります」と全国にサポーターがいる。
取材中もフォーチュンは馬房から顔をグイッと出して愛嬌(あいきょう)を振りまく。「お客さんがいないと顔を出したりはしないんですけど。見学慣れしているというか、人当たりは凄くいいです」。そんな愛くるしい姿を収めた写真を投稿している同牧場のX(旧ツイッター)も人気で、「一日でも長くお元気で」などと多くのユーザーから応援コメントが寄せられている。
ちなみに、国内のG1優勝馬で最も長生きしたと言われているのが“神馬”
シンザン(35歳102日)。厳冬や近年の炎夏を鑑みれば、その道のりは決して平たんではないが、思わず「目指せ
シンザン!!」とエールを送りたくなるほどに、31歳フォーチュンの瞳はエネルギッシュに輝いていた。
スポニチ