日々トレセンや競馬場など現場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」は美浦取材班の高木翔平(34)が担当する。来年3月の開業が待ち遠しいのが騎手時代に“カッチー”の愛称で親しまれた
田中勝春師(53、写真)。5〜6月には英国、アイルランドで研修を積み、開業に向けて準備を進めている。
「勝春!」、「カッチー!」。田中勝師がスタンド前に現れると、柴田善ら多くの人たちに声をかけられる。ジョッキー時代から健在の明るさと人懐っこさ。パッと場の雰囲気を明るくしてしまうのは天性のものだろう。田中勝師は「トレセンにも来ているし、生活
サイクルは騎手時代からあまり変わらないね。細かい準備などで本格的に忙しくなるのは、秋以降じゃないかな」と穏やかに笑った。
ジョッキーとして
JRA通算1812勝。92年
安田記念(
ヤマニンゼファー)、07年
皐月賞(
ヴィクトリー)で
ビッグタイトルも手にした。それでも50歳を超えた頃から思うような騎乗ができなくなり、調教師としての新たな道を志した。「騎乗馬もだんだんと減ってきていた時に、四位(現在は栗東で調教師)が“調教師を目指せばいいんじゃないか?”と言ってくれた」。調教師試験の合格前から、定年解散間近だった名門・
藤沢和雄厩舎で異例の研修。強い決意を胸に“第二のスタート”を切った。
5、6月には英国、アイルランドで約2週間の研修。日本とは“しつけ”の面で大きな差を感じたと言う。「ウェルド厩舎(今年の英
オークス馬
エゼリヤを管理)の馬たちは、扉を開けっ放しにしていても出て行かないんだよ。日本だったらピューって逃げていく馬が多いと思う。装鞍する時も口をかけていないし、本当にしつけが行き届いていた」と驚いた様子。当歳、1歳時代から丁寧な教育が行われていれば、厩舎に入ってきた後も調教がスムーズに行われる。「2歳で入厩する時にマイナスからのスタートか、いきなり競馬に向けての調教を行えるかの違いはその先を考えても凄く大きい。そのあたりをうまく(牧場と)連携して行えるか、いろいろと考えていきたい」と語った。
理想の厩舎像は“相撲部屋”。「みんなで強くなって、丈夫でそれぞれの馬の能力を100%引き出してあげられるような厩舎にしたい。馬のケアなどは(スタッフの方が)プロだから、任せられるところは任せて」。人も馬も楽しみながら強くなる。笑顔が絶えない田中勝厩舎の開業が今から待ち遠しい。
◇高木 翔平(たかき・しょうへい)1990年(平2)4月29日生まれ、広島県出身の34歳。15年入社で競馬班一筋。23年から東京本社予想を担当。
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