私が初めて姿を間近で見たのは昨年6月の
宝塚記念直前。栗東滞在で調整を進めていた青鹿毛の
イクイノックスは、気品に満ちあふれ力強かった。誰もが認める世界ナンバーワンホース。まさにサラブレッドの“究極系”ともいえる彼の走りは数多くの競馬ファンを熱狂させた。引退には少し寂しさも覚えたが、彼の子どもたちが新しい物語を紡いでいってくれる。
種牡馬1年生となり、新しい道を歩み出した
イクイノックス。北海道の社台スタリオン
ステーションへ伺い、彼の今を取材させていただいた。現役時代となんら変わらない気品を身にまとい堂々としたたたずまい。数々の名馬たちを見てきた徳武英介場長の目に彼の姿、可能性はどのように映っているのだろうか。「競馬を走っている時のイメージとほとんど同じでしたね。お父さんよりも繊細で、日頃の振る舞いは冷静で状況判断はしっかりできるけど、頑張れっていう指示を与えると、異常に反応が早い」と能力の高さに感嘆の表情を浮かべる。
「体は
キタサンブラックに似ていると言えば似ているけど、よりスピードに特化されている感じ。速く走るために無駄をそいであるフォルム。
サンデーサイレンスがそういう馬でした。サンデー系の一番いいところである、真っすぐなところは
キタサンブラックを通じて持ってきたのかな」と冷静に分析。「
ディープインパクトはおっとりして、クレバーな感じで“文武両道な優等生”のようだった。
キタサンブラック、
ブラックタイドはどこまでいっても“アスリート”。余計なことを考えてサボることをしない」と名馬たちの血は脈々と流れているようだ。
種付け料は初年度から2000万円と破格の数字だったが即満口に。昨年、顕彰馬に選出されたG1・9勝の
アーモンドアイを含め、約200頭の種付けを行った。「頑張り過ぎるところがあるのでゆっくり体調に合わせて増やしていきました。けがをしたり、おなかを痛めてしまったりすることのないよう、種付けが始まる2月は1日1頭から」と焦ることなく、状態を見ながらの立ち上げ。結果的に休むことなく、無事に十分な頭数の種付けを終え、初年度の任務を完了した。「何より“受胎がいい”。大事な要素ですね。背腰も強い」と、既に種牡馬としての素質タップリだ。
祖
父ブラックタイドから父
キタサンブラックがG1・7勝を挙げ日本の中長距離界の頂点へ。さらにその子
イクイノックスが世界一となり、日本の競馬界に大きな影響を与えることになった。「血統表に並ぶ3代が、日本にいた馬だけで組み合わされていて、ついにそこから世界に通用する馬が出た。本当にうれしいことです。ファンの方々は3代みんなを知っているわけですからね。真のメイドイン
ジャパン。
キタサンブラックや、
イクイノックスは凱旋門へ行くことはありませんでしたが、子どもたちがそういう夢も見させてくれるかもしれない。楽しみです」。次のステージに足を踏み入れた日本競馬の生産界。世界を魅了した
イクイノックスが、また新しい風を吹き入れる。(デイリースポーツ・小田穂乃実)
提供:デイリースポーツ