長く競馬を見てきた筆者としても衝撃のあったレースの一つだ。97年
オールカマーを制したのは3歳牝馬
メジロドーベル。3歳牝馬の優勝は33年ぶり3頭目。同馬を最後に3歳牝馬の出走はなく、堂々たる金字塔となっている。
レースぶりは圧巻だった。ゲートが開いた瞬間に首を上げ、やや出負けした
メジロドーベル。前を行く馬たちのあまりの遅さに嫌気が差したのか、1コーナー手前からぐんぐん加速。外から抑え切れない勢いで先頭に立ってしまった。
ファンの頭には、あるレースがよぎった。
メジロドーベルが3着に失速した
チューリップ賞。前半のあまりに遅い流れに口を割り、頭を何度も上げて抵抗し、折り合いを欠いた。あの時の二の舞になってしまうのか…。
しかし、
吉田豊騎手は慌てていなかった。「先頭に立ったら、うまくハミが抜けた。もうこれで大丈夫と思った」
ドーベルは失速すると判断したであろう後続が4角でひたひたと迫る。しかし、
吉田豊の手応えは絶好だ。
ホウエイコスモスを振り切る。インから迫った
バーボンカントリーを左ムチ一発で退けた。坂上で追い上げた
ヤシマソブリンも寄せ付けない。3歳牝馬、完勝だ。
直線からゴールまで、改めてVTRを確認すると手前(軸脚)も替えていない。元々の能力が全く違ったということだ。
「
秋華賞は京都の内回りだからね。前でも競馬ができたことは収穫」。次走も見据えていた
吉田豊の言葉に報道陣は深く納得した。
大久保洋吉師は「抑え切れない時はハナを切る競馬も頭にはあった。いい意味で
ファイティングスピリットにあふれていた」と話し、想定内の競馬であったことを明かした。
この勝ちっぷりに度肝を抜かれたか、
秋華賞は単勝1・7倍の圧倒的1番人気に支持され、2馬身半差の快勝を収めた。
西高東低の時代に現れた、関東の強豪牝馬
メジロドーベル。その後も
エリザベス女王杯を連覇(98、99年)するなど、
吉田豊とともに秋の京都で輝き続けた。
スポニチ