【競馬人生劇場・平松さとし】29日に中山競馬場で
スプリンターズSが行われる。数々の名勝負を生んできた短距離王決定戦。最大の番狂わせだったのは1998年だろう。1番人気に支持されたのは
タイキシャトル(美浦・
藤沢和雄厩舎)。デビューから12戦して11勝、2着1回。前年覇者であり、この年は春にG1
安田記念、秋にはG1
マイルチャンピオンシップを制したばかりか、夏はフランスへ飛び、伝統のマイルG1
ジャックルマロワ賞でヨーロッパの強豪を負かして優勝していた。
単勝オッズは実に1・1倍の圧倒的1番人気だった。レースは前半が32秒台の
ハイラップを刻んだが、
タイキシャトルは悠々先行。4コーナーで抑え切れない感じで先頭に並んできた時は誰もが「やはりこの馬は一枚も二枚も違う」と思ったことだろう。
しかし、競馬は何が起こるか分からない。直線入り口で外から
マイネルラヴが並びかけに来ると、
タイキシャトルにはいつものような伸びがない。最後の直線で先頭に立ったのは
マイネルラヴで、必死に食らいつく
タイキシャトルはゴール直前で
シーキングザパールにもかわされまさかの3着に沈んでしまった。
ゴール直後に左手で
ガッツポーズを見せたのは単勝37・6倍の
マイネルラヴで見事に大金星をつかみ取った
吉田豊騎手。「
マイネルラヴには調教でも乗ったことがなくて、レースが正真正銘の初騎乗でした。返し馬の段階から良い馬だとは感じました」。しかし、世界を制した名馬を相手に自信を持てたわけではなかったそうだ。
「正直、まさかシャトルに勝てるとは思っていませんでした。ただ、4コーナーでやたら良い手応えで並んで行ったので“こうなったら無理に我慢せずに行ってしまえ!”という感じで追ったらかわすことができて、驚きました」
勝った本人でも驚くのが競馬の難しさ。さて、今年もまた大番狂わせが待っているのか、はたまた順当に終わるのか。日曜日の中山に注目しよう。 (フリーライター)
スポニチ