牝馬の時代と言われるようになって久しいが、その黎明期の中心的存在が
エアグルーヴだ。牡馬の一線級と何度も好勝負を演じたが、とりわけ印象的だったのは97年の
天皇賞(秋)。1番人気の
バブルガムフェローとの一騎打ちを制し、牝馬としては17年ぶりの戴冠を成し遂げた。そんな一戦を改めて振り返りたい。
エアグルーヴは
父トニービン、
母ダイナカール、母の
父ノーザンテーストの血統。父が88年の
凱旋門賞馬なら、母は83年の
オークス馬。良血揃いの社台
ファームの中でも、とりわけ将来を嘱望される存在だった。その期待に応えて3歳時に
オークスを制覇。4歳となって
マーメイドS、
札幌記念と連勝し、迎えた一戦が
天皇賞(秋)だった。
単勝1.5倍の1番人気は
バブルガムフェロー。前年の覇者であり、前走の
毎日王冠を快勝。まさに文句なしの主役だった。そして2番人気が4.0倍の
エアグルーヴ。3番人気は少し離れて9.6倍の
ジェニュインで、戦前は一騎打ちムードが漂っていた。
レースは
サイレンススズカの大逃げで幕を開ける。
バブルガムフェローは3番手を手応え良く追走。その3馬身ほど後ろで
エアグルーヴが脚をためた。勝負の直線、
バブルガムフェローが抜け出そうとするが、その外から襲い掛かったのが
エアグルーヴだ。2頭が後続を突き放し、完全な一騎打ち。最後は
エアグルーヴと
武豊騎手が、食い下がる
バブルガムフェローと岡部幸雄騎手をクビ差抑えてゴール。80年の
プリテイキャスト以来で17年ぶり、そして
天皇賞(秋)が2000mになって以降では初となる牝馬Vを成し遂げたのだった。
それまで、牝馬が牡馬相手にGIを勝つのは、マイル以下の短距離戦がほとんどだった。しかし、この一戦を機に中距離でも、牝馬が一線級の牡馬に挑む機運が高まっていく。00年代の
スイープトウショウや
ヘヴンリーロマンス、
ウオッカや
ダイワスカーレット、10年代の
ブエナビスタや
ジェンティルドンナは、その代表格といえるだろう。意外に思われるかもしれないが、
エアグルーヴのGI勝ちは
オークスと
天皇賞(秋)の2つだけ。それでも新たな時代の幕開けを告げた功績は、末永く語り継がれていくに違いない。