「
パトロールビデオ」をご存じの方は多いと思う。競馬場の外周沿いに建てられた「
パトロールタワー」から撮影する映像で、各馬の位置取り、不利はないか、進路妨害はないか、などを裁決委員がチェックするものだ。
この
パトロールビデオ。今や
JRAの公式ウェブで見ることができる。「この1頭分のスペースを突き抜けたのか」「こんな外から飛んできたのか」など、いわゆるテレビの映像とは違った強さを堪能することができる。
パトロールビデオを見て改めて、その強さが分かるのが、この不良馬場で行われた
天皇賞・秋だ。
キタサンブラックを操る
武豊騎手のコース取りは神がかっていた。
キタサンブラックは珍しく出遅れる。ゲートが開く前に突進し、前扉に顔をぶつけた。いきなり後方から2番手。スタンドがどよめく。だが、ここから冷静に運ぶのが
武豊騎手だ。
他馬が嫌う内へとハンドルを切った。向正面で徐々にポジションを上げる。
武豊騎手は返し馬で感触をつかんでいた。「特殊な芝だったが、返し馬の感じでこなせると思った。リスクはあるが思い切って内へと誘導した」。馬場のどの部分までなら
キタサンブラックはこなせるのか。返し馬から丹念にチェックした。名手は周到に準備していた。
その後も3〜4コーナーを最小半径で回り続け、4角では何と2番手。そこからが、また素晴らしい判断だった。外へと動かし、4分どころ付近で右ムチを入れた。不良馬場とは思えないほど、スムーズな脚さばきで
キタサンブラックは先頭に立った。
よく見ると、周囲の馬たちの脚元からは水しぶきが時折上がり、土が掘られて後方へと飛ぶ様子が見て取れる。だが、
キタサンブラックの脚元からは、そんな様子が一切見られない。通るべきコースはどこなのか、
武豊騎手はしっかりと分かっていたのだ。
最後は
サトノクラウンに詰め寄られたが、首差しのいでフィニッシュ。通ったコースが少しでもずれていれば、
サトノクラウンが勝ったのではないかと思えた。「
サトノクラウンの蹄音は聞こえていた。必死だったが冷静に対処できた」。
武豊騎手にしかできない勝ち方だった。ファンの歓声がいつまでもやまなかった。
スポニチ