3歳の頃から目標としていた職業に就けている人は世の中にどれくらいいるのだろうか。当時の私は大人になった自分を想像したこともなかったであろう。
佐藤翔馬騎手=美浦・
杉浦宏昭厩舎=は、3歳から憧れていた騎手として2023年にデビュー。父は川崎競馬の元騎手で地方通算512勝の
佐藤博紀調教師。母の里美さんは自身の乗馬経験を生かして現在は
川崎競馬場で厩務員と、競馬界のサラブレッドといえる。
物心がついた頃から馬に乗っていた翔馬騎手は、ジョッキーベイビーズの地区予選を3度も勝ち抜き、第4回、第6回、第9回と東京競馬場の芝コースを駆け抜けた。第4回出場時の年齢は7歳で小学校2年生だった。「初めて芝コースで走ったから、すごい気持ち良かった。(将来の夢は)ジョッキーになりたいです」。あどけないながらもレース後には、明確に観衆へ向けて目標を掲げていた。
夢に見てきた騎手生活。「今までは客席から憧れて見ていた騎手をやらせてもらっていますし、やっぱり馬に乗るのが好きなので楽しいです」。デビュー直後には所属していた小桧山悟厩舎の
トーラスジェミニで重賞(ダービー卿CT16着)に挑戦。順調なスタートを切ったように見えたが、なかなか勝利を収めることができず、ここまでは
JRA通算4勝。「思い描いた成績とは違っていて、もっと自分が勝ちたいというのが大前提ですが…」と悔しさをにじませる。「普段の調教からどうしたら走れるかを考えて、その馬が勝ってくれたときはおもしろいですね。とにかく技術を磨いてうまくなりたいです」と競馬に対しての
モチベーションや向上心は高い。
その言葉通りに美浦では毎日のように朝一番から調教をつけ、競馬場ではレース後に調教師と映像を熱心に確認。身ぶり手ぶりを交えて、丁寧に意見を
フィードバックする姿を何度も目にしてきた。「普段、調教に乗っている馬のコントロールがつきやすくなったと感じるときとかはうれしいです。馬にとってどういう条件や馬具がいいと思ったのかを、レース後などに先生に伝えることも大切だと思っています」。騎手はレースで勝つことが求められる職業だけに勝利数で評価されがちだが、携わった馬の活躍に貢献している面があることを忘れてはならない。
今年のヤングジョッキーシリーズ東日本地区では、10月22日の浦和シリーズで2連勝するなど、
JRA騎手のなかで首位通過。「最後まで馬を諦めさせずに走らせるガッツのある騎乗」を自身のPRポイントに挙げている。地方は力がいるダートで消耗戦になりやすく、馬を動かす技術やラストでひと踏ん張りさせる力がより必要になるが、
JRAを超える勝利数をマークしている。「
JRAより地方のほうが位置取りを含めてうまくいったなというレースは多いです。何でかは分からないですけど、(父の)血なんですかね」と冗談っぽく笑ってみせるが、自身の持ち味を発揮しやすい条件では、きっちりと勝利を手にできていると考えることもできる。
「少ないチャンスをものにできるように、日頃から技術を高めて頑張っていきたい。今後、勝ち鞍が増えてきても1頭1頭大事に乗るというこの気持ちを忘れずに」。今は大きく“翔”ぶための礎を築いている段階かもしれないが、日々の積み重ねが実を結ぶ日が必ずくると期待している。(
中央競馬担当・浅子 祐貴)
スポーツ報知