秋G1シリーズの水曜企画は「G1追Q!探Q!」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけて本音に迫る。牝馬No・1決定戦「第49回
エリザベス女王杯」は東京本社の出田竜祐が担当。前走
新潟記念で重賞初制覇を飾り勢いに乗る
シンリョクカの
木幡初也(29=竹内)に「奇跡の激走」「ジョッキー一家」「G1挑戦」の3テーマを問う。
(1)奇跡の激走 走った。粘った。9月の前走
新潟記念。2番手で直線を迎えた
シンリョクカ。残り400メートル。他馬の仕掛けに呼応して木幡初の手が動く。逃げ馬をかわして先頭へ。日本一長い新潟の直線。最後は
セレシオンの猛追を鼻差しのいでゴールを駆け抜けた。新馬勝ちのみの1勝馬がアク
シデントを乗り越え、初タイトルを獲得した。
4月の
福島牝馬Sはレース中の転倒により競走中止。人馬とも負傷した。木幡初は「馬ってそういうものがトラウマになっちゃう繊細な生き物。レースに対してもネガティブなイメージを持つことが全然ある。それを克服してちゃんと走ってくれて、なおかつ勝ってくれた。ホントただただ尊敬ですよね」と賛辞を惜しまない。
復帰戦。まずは無事にレースを終えてほしい。陣営の願いをいい意味で裏切った。「(成長を)一番感じたのは精神力。メンタル的に凄く落ち着いていて、走る気をなくしちゃったのかなと危惧していた。そんなことはなくて、ただ大人びただけみたいな。競走馬として成長してくれたんだなと思っています」と木幡初。年齢を重ね、
シンリョクカは心身とも成熟した。
(2)ジョッキー一家 木幡初の父は
JRA通算784勝の初広さん(18年引退)。弟の巧也(28)、育也(26)と
JRA3兄弟ジョッキーとして切磋琢磨(せっさたくま)する。「やっぱり親の背中を見ていたのか、気づいたらみんな自然と(騎手に)なっていましたね」。17年4月1日の中山6Rでは一家4人で初めて同じレースに騎乗。同年10月28日の新潟8Rでは、年齢順に初也→巧也→育也で、
JRA史上初となる3兄弟騎手によるワン
ツースリーも決めた。「お父さんも弟もラ
イバルで競い合えたのは良かったですかね」と自身の境遇をプラスに捉えている。
シンリョクカの
新潟記念が待望の重賞初勝利。母と弟たちから手厚い祝福を受けたというが「お父さんはスッとしていましたね。(一言)“良かったな”みたいな。まあ、厳しさも知っているのがお父さんなので」と振り返る。現役引退時に「自分が勝てなかったG1を息子たちに勝ってほしいと願っています」と夢を託した父。満足することなく、もっと上を目指してほしいという親心だろう。
(3)G1挑戦
シンリョクカは所属する竹内厩舎の管理馬で家族同然の存在。調教で初めてまたがった時から「併せ馬で抜いていく瞬間のエンジンというか、
ギアチェンジが違った。これは走るなと思っていました」。レースで初めて手綱を取ったのは22年阪神JFだ。
木幡初自身2度目のG1騎乗。デビュー戦(1着)で騎乗した
吉田豊が香港遠征、しかも1勝馬で9分の3の抽選をくぐり抜け巡ってきたチャンスだった。人馬とも持てる力を出し切り、12番人気2着と健闘した。勝ち馬は後の3冠牝馬
リバティアイランド。「よくあそこまで食らいついてくれた。ロスなく立ち回れたのが良かったですかね」。大舞台で全国の競馬ファンに存在感を示した。
シンリョクカとのG1挑戦は昨年の
エリザベス女王杯(9着)を含め3度目。「(昨年より)馬も良くなっているし、器用なのでスタートもうまいし折り合いの不安もない。流れの中で速かったら好位後ろ〜中団、遅かったら前々で競馬ができる。出たところで作戦パターンを考えています」とイメージを膨らませる。「前回勝てたことで馬も人もみんないいイメージでG1に持っていけると思うので、その勢いをプラスに変えていきたい。
チャレンジャーの立場で、うまく他馬の足をすくうような感じで勝てればいいですね」。人馬ともにG1初制覇へ。初也の夢は木幡一家の悲願でもある。
◇木幡 初也(こわた・はつや)1995年(平7)4月7日生まれ、茨城県出身の29歳。14年3月に美浦・鹿戸厩舎所属でデビュー。同15日中山12R
カレイファンタジアで初勝利。フリーを経て21年から竹内厩舎所属。
JRA通算3115戦90勝(G13戦0勝)。1メートル55、47キロ。
【取材後記】
「僕としては宝物っすね」。
シンリョクカとの出会いをそう表現した木幡初。
福島牝馬Sの落馬では、自身も右腕粉砕骨折の重傷を負った。痛々しい手術痕が残り、まだプレートが埋め込まれている。それでも、終始感じたのは愛馬への感謝と
リスペクト。「こうやって走る馬に乗せていただけるのも騎手冥利(みょうり)に尽きます。重賞を勝たせてくれたこと、G1に乗れるチャンスもあまりないので、そういうところを経験させてくれたことにも感謝している。凄く思い出の詰まった、苦しい時もいい時も全部含めてかけがえのない馬です」。その思いは背中を通して
シンリョクカへ伝わり、パフォーマンスで応えるのかもしれない。馬名の由来は由井健太郎オーナーの母校・成蹊大で音読される「心力歌」。人馬一体、心を一つにしてG1舞台に挑む。(出田 竜祐)
スポニチ