藤沢和雄元調教師が世間の度肝を抜いたことは何度もあるが、この勝利はそのトップ5に入るだろう。98年、阪神3歳牝馬S(現阪神JF)、
スティンガー連闘での制覇である。
11月8日、東京の新馬戦で牡馬相手に初勝利を挙げた
スティンガー。11月29日の牝馬限定戦・
赤松賞に中2週で登場した。ここも岡部幸雄騎手(引退)を背に2馬身半差で完勝。そこから連闘でG1に向かうというから世間は驚いた。
スティンガーの全姉は
サイレントハピネス。重賞2勝を挙げた実力馬だが、
オークストライアル(4歳牝馬特別)を勝った後、指揮官は
オークスに向かうことを明言しなかった。「勝ったとはいえ今回は10キロ減。ローテーション的にはダービーの方がいい」と話したのだ。
結局、同馬は
オークスにもダービーにも出走することはなかったのだが、その全妹では連闘でG1に向かうという。これは矛盾でも何でもなく、各馬の個性やコンディションを見定めた上で適切な手を打つという、藤沢流の真骨頂といえるものだった。
2歳牝馬、連闘、長距離輸送。陣営はそれが可能なのか、当然ながらチェックを重ねた。
まず、
赤松賞を勝ったことによる疲労だ。岡部騎手は「(勝ったが)きついレースにはなっていないよ」と指揮官に報告。レースによる消耗は少ないと判断された。
赤松賞が早い時間に行われたこともプラスとなった。同レースは
ジャパンCデーに行われ、11レース制の中の6Rだった。特別レースながら12時50分発走。早めに美浦へと、しかも渋滞なく帰ることができた。小さいことだが、これも
スティンガーの疲労を早めに取り去った。
最後にもうひとつ、工夫を加えた。深夜に美浦を出発して阪神へと輸送した。少しでも渋滞のない時間帯を狙い、
スティンガーへの負担を最小限にとどめるためだった。馬体減を覚悟したが、当日の計測は前走から8キロ減。狙いは達成したと言っていいだろう。
3番人気に過ぎなかった
スティンガーだが、結果は完勝だった。後方に構え、外から桁違いの脚で差し切った。
横山典弘騎手は「強いね。人間の方はヒヤヒヤしたけど、馬は終わった後もケロリとしていたよ。このままいけば来年は凄く楽しみになるね」。そのポテンシャルに舌を巻いた様子だった。
デビューから29日目のG1制覇。2歳牝馬による連闘、そして長距離輸送での頂点。あらゆる常識を塗り替えて、藤沢伝説にまた新たな1ページが刻まれた。
スポニチ