秋G1シリーズの水曜企画「G1追Q探Q」。担当記者が出走馬の陣営に「聞きたかった」質問をぶつけ本音に迫る。2歳G1「第76回
朝日杯フューチュリティステークス」は大阪本社の新谷尚太が担当。未勝利ながらG1にチャレンジする
クラスペディアの
河嶋宏樹師(40)は3月に厩舎を開業した新進気鋭のトレーナーだ。G1初挑戦への思いを聞いた。
JRA・G1で過去に例のない未勝利でのチャレンジ。キャリア3戦0勝の
クラスペディアは実績面で他馬に劣るが、完成度の高さは見逃せない。今年4月、中山競馬場で行われた
JRAブリーズアップセールに上場。河嶋師、塚田義広オーナーの目に留まり、1595万円(税込み)で落札された。その後、栗東へ入厩。河嶋師は「いい雰囲気でしたね。いったん放牧に出しましたが、牧場でもオープン馬を寄せ付けない動きをしてくれていました。帰厩後の動きも良くて、仕上がりの良さを感じました」と振り返る。
8月中京芝1200メートルのデビュー戦はハナを切って2着。惜しくも初戦Vとはならなかったが、非凡なスピードを見せた。その内容から、陣営は2戦目にG3小倉2歳Sを選択。指揮官は「勝って向かいたいというのが本音でした」と明かすが、レースは道中4番手から上がり3F最速34秒2で2着。8番人気の伏兵ながら、指揮官の期待通り重賞級の能力を証明した。
前走の
京王杯2歳Sは1400メートル戦に初起用。道中でエキサイトするシーンを見せながら0秒6差の5着に健闘。「掛かる感じはあったが最後は盛り返していました。マイルに延びる今回は普段の稽古から距離に融通が利くように調整している。楽に走っている印象があるし、距離延長に対応できると思っています」と歴史的Vへ意欲を燃やす。
3月に開業した河嶋師はG1初挑戦。それでも気負いは一切ない。調教師になる前に所属していた中竹厩舎では調教助手として、G1馬の背中を知った。09年
NHKマイルC覇者
ジョーカプチーノは北海道に滞在していたデビュー2戦を担当。21年
エリザベス女王杯を10番人気で制した
アカイイトの稽古にも携わっていた。2頭の共通点について「乗り味が良くて、独特の雰囲気を持っている。そういう馬がG1でも好勝負できると思います」。師にとって貴重な経験となった。
立場が変わり、今度は自身が管理馬をG1舞台に出走させる。「厩舎スタッフが盛り上がってくれればと思っています。ただ、自分自身は決して浮かれてはいけない。ゲートへ向かうまで愛馬をきっちり見届けたいと思います」。レース当日、ゲートインの瞬間まで気を抜かずに送り出す。
デビューから手綱を取るのはデビュー11年目の
小崎綾也(29、写真)。河嶋師は以前から鞍上と縁があった。18年
函館2歳Sを制した
アスターペガサスは小崎と師が所属していた中竹厩舎のタッグ。「あの時はうれしかったですね」と懐かしむ。続けて「うちの厩舎に元村山厩舎のスタッフがいて、小崎も元々は村山厩舎所属で騎手デビューしましたから。一緒にG1に挑戦できることは本当にうれしく思います」と笑顔で語った。
小崎の印象については「とにかく真面目。トップステーブルの調教も手伝っていて、一緒に仕事がしたいと思っていました」。デビューからタッグを組み、たどり着いたG1舞台。全幅の信頼を寄せる鞍上に託す。
◇河嶋 宏樹(かわしま・ひろき)1984年(昭59)10月24日生まれ、兵庫県出身の40歳。08年1月
JRA競馬学校厩務員課程入学、同年8月に栗東・中竹厩舎で厩務員、10月から調教助手。24年3月に厩舎開業。4月7日の阪神6R(
ウイニンググレイス)で初勝利。通算196戦7勝(10日現在)。
《史上2人目のG1初挑戦Vなるか》
クラスペディアを送り込む河嶋師は01年阪神JF(
タムロチェリー)を制した西園正師(開業4年目)以来、2人目のG1初挑戦Vを狙う。開業初年度の
JRA・G1制覇を達成した調教師は
グレード制導入の84年以降6人おり、勝てば08年
ジャパンCを制した鹿戸師以来の偉業となる。
【取材後記】河嶋師はトレセン内を歩きまくる。管理馬の馬場入り前の運動から入念にチェック。そして馬場入りした際にはコースまで一緒に歩いていく。騎乗するスタッフに声をかけ、感触を確かめる。アグレッシブな行動力とは反して、取材になると優しいまなざしで記者への質問に答えてくれる。人柄の良さが前面に表れているあたりが、関係者の信頼が厚い証拠だろう。管理馬に関わる全ての人への
リスペクトを忘れない精神。
グレード制が導入された84年以降、0勝馬でのG1挑戦は初めて。その勇気あるチャレンジを応援したい。(新谷 尚太)
スポニチ