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田中博厩舎に初重賞制覇&初G1もたらしたレモンポップ“先生”

スポニチ
  • 2024年12月12日(木) 05時05分
 日々トレセンや競馬場で取材を続ける記者がテーマを考え、自由に書く東西リレーコラム「書く書くしかじか」。今週は大阪本社の田井秀一(31)が担当する。中京競馬場で見届けたチャンピオンズCを振り返り、今季絶好調の田中博厩舎にレモンポップがもたらした財産を考察する。

 ラストラン当日に引退式が組まれた馬が優勝したのは21年ジャパンCのコントレイル以来。鼻差の写真判定中から田中博師の瞳は潤んでいた。気力に陰りが見えていたレモンポップが、死力を振り絞って踏ん張った姿に感動。検量室前でライバルだった調教師らに「大丈夫。勝ってるよ」と声を掛けられ、涙がこぼれた。着順が確定すると担当の田端助手と抱き合い、歓喜に浸った。

 厩舎開業3年目の20年にデビューしたレモンポップ。常識外れの筋肉量と運動神経、何より真面目な性格を有した駿馬は米国キーンランド社ノベンバーセールにて、ダーレー・ジャパンのハリー・スウィーニィ代表に見いだされ日本へやってきた。わずか7万ドルの廉価だった。

 天与の資を授かった名馬は周囲の人々にも恵まれた。デビュー2連勝後、脚部不安で1年以上休養。再発が懸念される症状だったというが、以降は大きな故障がなかった。厩舎には多種多様な物理療法機器が整備されており、田端助手が入念にマッサージを施した。田中博師も「担当の田端や、付きっきりで調教に乗ってきた穂苅を筆頭にスタッフが一生懸命やってくれた。彼らのことを信じていた」と全幅の信頼を置く。そして、新馬戦から重賞初勝利の根岸Sまで手綱を取った戸崎にも感謝する。8戦7勝と出世の歩みを止めることなく、同馬に競馬のイロハを教えてくれた恩人。「戸崎騎手がいなければ、今のレモンポップはない」と事あるごとに敬意を口にしてきた。

 厩舎に重賞初勝利、G1初勝利、初めての海外遠征をもたらした、まさにパイオニア。師は「われわれにとっての先生。何があっても諦めてはいけない、と最後の最後まで教えてくれた」と最敬礼する。今年は関東首位のJRA45勝を挙げ、勝率23・6%、連対率37・7%は全体トップ(いずれも11日現在)。あらゆる数字がキャリアハイで、“先生”の教えが開花した一年となった。引退式で穂苅助手が「海外遠征で2戦とも結果を出せなかったことが思い出深い」と触れたが、厩舎として苦戦が続いた海外でも、今秋のBCターフローシャムパークが2着に激走。経験が実を結び始めている。

 厩舎名物の縦列調教で後輩を先導してきたレモン。調教パートナーにも選ばれたデンクマールキングノジョーなど現2歳馬が最後の“門下生”となる。きっと、来春以降のG1戦線をにぎやかせる黄金世代となるに違いない。5日に39歳になったばかりの若きトレーナー。定年引退までまだ30年以上を残しているが、現役を退かれる際にまた聞いてみたい。「先生にとってレモンポップはどういう存在でしたか」。その時が来るまで競馬記者をクビにならないよう、自分も頑張らないと。

 ◇田井 秀一(たい・しゅういち)1993年(平5)1月2日生まれ、大阪府出身の31歳。阪大卒。道営で調教厩務員を務めた経験を持つ。19年春から競馬担当。netkeibaTVで「好調馬体チョイス」連載中。

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