半世紀以上生きてきて、G1レースで1番人気の馬を買ったのって、
菊花賞の
ミホノブルボンしかない。1992年。32年前だよ!
私は常に「人気がないヤツ」の味方だった。人気のある馬は走るのが速い上に、なぜか顔も
ハンサム、おまけに生まれもいいときた。金持ちの子供が東大通いながらモデルもやってます、みたいな存在ではないか。そんなやつの応援をなぜできるか。
ディープインパクトなんてまさにソレ。ディープが勝ちまくってた時期に競馬やめてたもん。ディープに罪はないが。
平凡な家庭に生まれてルックスは十人並みかそれ以下、身の丈に合わない華やかなパーティーに出ておどおどしている、そんな馬が、何かの間違いで主役になる。そういう夢を常に見てるのだ。
有馬記念は競馬で最も盛り上がるキラキラのレースだ。そういう夢の舞踏会で、普段ボロを着させられていたシンデレラがいきなり主役になる。ああ素晴らしい年の暮れ。
しかし今年私は
ドウデュースを買うことに決めている。
ドウデュースなんてあらゆる人気の権化だ。たぶん1番人気だろう。なのになぜ買うか。それはあの馬主さんに感情移入してるからだ。
初めて馬主の松島さんを見た時から、他人とは思えなかった。いや、似通ったところなど一つもないが、「推し活仲間」として他人と思えない。
武豊ファンで自分の馬に
武豊が乗ってダービー勝つのが夢だったという話を聞いて、ものすごく「純」なものを感じないわけにはいかない。この人は仲間だ。そんな松島さんが自分の馬に
武豊乗せてダービー勝って、そのあと天皇賞もJCも勝つ。あらゆる「推し活してる人」の、最高の成功を得た人だ。その喜びっぷりも、他人の目なんか気にしないほどの、素晴らしいまでの崩れ方で、「この人はホンモノだ」と思った。誰かのことを本気で推したことのある者なら分かる。
松島さんは社長さんで、馬主資格を得るぐらいの安定収入があり、サンデーの馬を個人で買える人であり、そして強い馬が来た。普段の私なら「打倒
ドウデュース!金持ち反対!レーニン万歳!」とか言いたくなるところだけど、仲間だから許す(何様だ。すみません)。
で、私は思うのである。最高の夢をかなえてしまった松島さんのこれからを。夢はいつかさめる。これからどんな馬が現れても、
ドウデュースの走りほど心を動かすことはない。栄光を食べ飽きてしまうだけなのだ。これから待っているのは、ある意味無限の闇の道。推し活の光と影。私は勝手に松島さんの身になってこんなことを考え込んでは、勝手に落ち込んだりしているのである。松島さんもいい迷惑である。こうやって自分と他人の区別がつかなくなるのも何かを推してる者の悪い癖だ。ほんとすみません。
松島さんの胸の痛みを勝手に感じながら、いつもなら買うはずのない
ドウデュースが最後に勝ってほしいと清き単勝を買うことにする。
スポニチ