「
有馬記念はマイラーでもこなせる」――距離適性に関して、ある種、格言めいたこのフレーズを聞いたことがある競馬ファンは多いだろう。今回の
有馬記念では、このフレーズを検証しつつ、血統的なアプローチから狙い馬を定めていこう。
実際、
有馬記念でマイラーが好走したのはいつかと問われれば、はたと手が止まる。まずマイラーの定義の問題だ。マイルG1勝ちがあるものの
ドウデュース、
ドリームジャーニー、
ブエナビスタをマイラー認定をする人は、もちろんいるだろうが、多数派とはなるまい。06年と07年3着
ダイワメジャーは希代の名マイラーといって差し支えないが、
皐月賞も
天皇賞・秋も勝った中距離含みのマイラー。純マイラーとは違う。91年勝ち馬
ダイユウサクが1200メートルのレコード勝ちやマイルオープン勝ちから
有馬記念の臨戦からマイラーの印象がなくもないが、古馬以降の主戦場は2000メートルだった。88、90年勝ちの
オグリキャップが現役当時、距離不安をささやかれた。とはいえ「純マイラー」的な評価をされていたかと言われると、そうではなかったはず。おそらく競馬ブーム華やかなりし88〜91年で、
オグリキャップの隔年制覇、
サッカーボーイや
サクラホクトオーなど距離に壁がありそうな馬の好走、そして
ダイユウサクが
メジロマックイーンを差し切ったことをとどめとして「
有馬記念はマイラーでもこなせる」というフレーズが人口に膾炙(かいしゃ)したものと思われる。その後98、99年に連覇した
グラスワンダーが補強したか。とにかく純マイラーの
有馬記念好走例はないにもかかわらず、このフレーズが長らく消えないのは、伝説的な名馬や逆転劇の伝承、時折マイル実績馬が走る事実、最後に「血統的なイメージ」に支えられていると思う。ここでは、最後のポイントである「血統的なイメージ」について見ていこう。
16年以降の
有馬記念で馬券圏内に入った24頭のうち、18頭は父か母の父が現役時代に1200〜1800メートルのG1を勝っている=表参照=。20年1着、21年3着の
クロノジェネシスは、
父バゴも母の
父クロフネも芝マイルG1勝ちあり。
クロノジェネシス自身も今となってはマイラーの印象はないが、阪神JF2着、
クイーンC1着、
桜花賞3着と早い時期にマイルで活躍した。
そもそも
有馬記念はその年に活躍したG1勝ち馬、G1好走馬が多数出走する。
有馬記念好走馬は配合トレンドを示すといえる。各年の出走馬で「父または母の父、両方が1200〜1800メートルG1勝ち馬」を抽出すると、16年以降8、10、10、10、8、8、8、8頭。半分以上を占めることで配合の有効性が明白。条件が長いので、この血を持つ配合をここでは「短哩(マイル)仕込み」と呼ぼう。短哩仕込み8〜10頭の中から2頭ないし3頭が馬券になっていることを考えれば、馬券のフィルターとしても一定の有効性を認められるだろう。
一例として昨年の
有馬記念を振り返ってみよう。短哩仕込みに該当する8頭のうち、人気順で該当した馬を見ていくと2番人気
ドウデュース(1着)、3番人気
スルーセブンシーズ(12着)、7番人気
スターズオンアース(2着)。条件に該当しない1番人気
ジャスティンパレスは4着、4番人気
ソールオリエンスは8着に敗れた。
今年の出走馬における「短哩仕込み」を確認すると同時に、有力馬で「非短哩仕込み」も合わせて見ておこう。
牝馬で出走予定の馬は
スタニングローズと
スターズオンアースが短哩仕込みの配合だ。5年連続で牝馬が馬券圏内に入っているが、今年も牝馬が好走する予感がある。そして重馬場巧者で知られる
ブローザホーンも母の父は
デュランダル。
デュランダルはス
プリント&マイルのG1を制しており、母方は軽めの短〜マイル志向であることは強調しておこう。
ベラジオオペラは
有馬記念での好走が目立つ
キングカメハメハ系の筆頭後継
ロードカナロア産駒だ。
プログノーシスの母父オブザーヴァトリーは芝マイルの英G1クイーンエリザベス2世C勝ち馬。自身のマイル勝ちもあり、走れる素地は十分ある。
一方、
アーバンシック、
ジャスティンパレス、
シャフリヤール、
ダノンデサイル、
レガレイラといった注目を集める面々が「非短哩仕込み」。
シャフリヤールの母の父エッセンスオブドバイや
ダノンデサイルの母の父コングラッツは短〜マイルでの活躍馬だがG1を勝っていない。このあたりは厳密にいきたい。
そして唯一、父と母の父ともに短哩仕込みの馬が出走予定馬の中に1頭いる。
父キングカメハメハ×母の
父クロフネの
ハヤヤッコだ。配合構成的には
クロノジェネシスと同じフレーム…と言えなくもない、はず。ダート重賞を勝ってダートで名をはせ、芝シフト後にG3、G2と勝利を重ねてきた白毛の泰山北斗が、「
クロノジェネシス的短哩配合」を存分に生かして
有馬記念で好走する!?いや、まさかとは思いつつ…結末を見守ろう。(仙波広雄)
スポニチ