有馬特別連載「サンクス・
ドウデュース・ファイナル」。第2回は
ドウデュースの放牧先であるノーザン
ファームしがらき(滋賀県甲賀市)で携わった日高裕貴厩舎長(37)に、オフでの様子や苦楽を共にした3年半の思い出を聞いた。(取材・田井 秀一)
信楽焼で有名なのどかな町の山あいに、外厩施設ノーザン
ファームしがらきがある。競馬界をリードする巨艦の関西拠点にして、
ドウデュースがオフを過ごした安息の場所だ。
初入場は2歳の6月。管理を任された厩舎の長、日高さんは第一印象を「特別、目立つ感じはなかった」と振り返る。馬房では「寝るか、食べるか、ぼけっとしているか」。手を焼くことがなく、存在感は控えめ。評価が一変したのは9月の新馬戦(小倉)を走ってからだった。
「帰ってきた時に、それ以前と雰囲気が全く違いました。その後もレースを使うごとに体が引き締まって、躍動感が大きくなって。初めての経験でした」。戦うたびに強くなる。「まるでサイヤ人(※漫画
ドラゴンボールに登場する戦闘民族)」と、類いまれな成長力を例える。
好きなものは「ご飯、速く走ること。あとは…芦毛の馬」。頑強でおちゃめな同馬が唯一、困憊(こんぱい)した姿を見せたのが22年の
凱旋門賞(19着)挑戦後だった。「あれだけ肉が落ちて帰ってきたのはあの時だけ」。驚異的な回復を見せたが、万全を期して次走は4カ月後の
京都記念に。「一番、緊張しました。普段乗っている感じは変わらないけど、メンタル面がどうかはやってみないと…。だから、勝ってくれて本当に安心しました。最も印象に残っているレースです」と述懐する。
挫折と復活を重ね5歳秋にまた強くなった
ドウデュース。その覚醒の裏には今夏の挑戦があった。春の結果を踏まえ、「接し方を思い切って変えました。人がリーダーとなって馬との関係を再構築。遠慮せず“ダメなものはダメだよ”と。洗い場ではつながなくてもジッと立っていられるぐらい人に対して集中してもらうようにしました」。3年連続G1勝利中の名馬に新たなことを課すのは「勇気が必要」だったというが、さらなる高みを目指して踏み込んだ。
これに
ドウデュースが応える。「洗い場や厩舎でも馬っ気が凄くて危ないぐらいに“ブーッ”と鳴いていたのが、隣に馬がいてもジッとできるように。順応して馬自身が考えてくれた結果だと思います」。現状維持に甘えない気概が、進化につながった。
レース当日、日高さんは現地で観戦予定。「まずは無事にという思いが強いです。あの馬にとって種牡馬になることはご褒美(笑い)。幸せなことだと思いますから」と情愛をのぞかせ、最後のエールには「“尊敬しています”と伝えたいです。本当に凄いと常々、思っているので」と
リスペクトを込めた。苦楽を共にした3年半の集大成。きっと、
ドウデュースの剛脚がもたらす興奮と歓喜のゴールが待っている。
◇日高 裕貴(ひだか・ひろき)1987年(昭62)3月9日生まれ、宮崎県出身の37歳。05年にノーザン
ファーム入社。10年の開業当初からノーザン
ファームしがらきで従事し、18年から厩舎長を務める。馬づくりのモットーは「調教にハッピーな気持ちで向かえるよう、馬にストレスを与えないこと」。趣味は映画観賞。癒やしのひとときは子供と遊ぶ時間。
スポニチ