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JRA史上初の女性調教師・前川恭子師 3月開業前に思い語る “一期一会”大切に「人馬にとって“楽しい厩舎”」づくりへ

デイリースポーツ
  • 2025年01月01日(水) 06時00分
 23年12月に調教師試験に合格し、いよいよ3月に開業が迫る前川恭子調教師(47)=栗東。近年、女性騎手の活躍こそ増えているが、女性調教師はJRA史上初となり、競馬界に新たな歴史が刻まれることになる。新年に際し、年女でもある前川師の心情に迫った。

  ◇  ◇

 -JRA史上初の女性調教師に。幼い頃から馬は身近にあったのか。

 「私が生まれた千葉県の富里市というところは昔、すごくたくさん生産牧場があって、保育園や小学校の通学路の脇に牧場があるような場所でした。だから、毎日馬を見ながら通学していましたね」

 -馬と関わる機会は多かった。

 「11歳から乗馬を始めました。その乗馬クラブのみんなと手作りで馬場を作ろうということになって、実家に使っていない畑があったので、そこをつぶして馬場にしました。枕木でラチを手作りしたり、馬房も自分たちで建てたりしていました」

 -その頃から馬業界で働くということに興味が?

 「全然、その時は考えていなかったですね。大学で馬術部に所属していましたが、美浦の乗馬苑(JRAの施設を利用した乗馬センター)に、馬術部の活動の一つとしてアルバイトに行くことがありました。その時に競馬関係のお仕事を知って興味を持ちましたね。以前までは全く競馬のことは知らなくて、どちらかといえば馬の世界について広く普及させたいという気持ちが大きかったように思います」

 -競馬業界に興味を持ってからはどのように過ごしていたのか。

 「北海道浦河町のビクトリーホースランチという牧場で約2年間働いていました。そこから競馬学校生になり、トレセンに入るまでの3カ月はアイルランドにも行きました。アイルランドは女の人がすごく多かったですね。21年前になりますが、スタッフの半分が女性で厩舎を運営している調教師も女性でした。あまり男女差を感じませんでしたね」

 -調教助手時代に一番印象に残っている馬は。

 「京阪杯(08年)を勝利したウエスタンダンサーです。よく走ってくれたのももちろんですが、もうちょっといろいろできることがあったんじゃないかなと、今になっては思います」

 -やはり調教助手時代に学ぶことは多かった。

 「馬の仕事は、思い通りにいかないことばかりなので、悔しいことの方が多かったですね。悔しいところからどうしたらいいかなど学ぶことは多かったです」

 -調教師を志すようになったタイミングは。

 「もともと調教師になりたいと思い、トレセンで働くことを決意しました。最初は競走馬をリトレーニングして、乗馬を増やしたいなという気持ちが強かったですね」

 -お子さんを育てながら調教師を目指すということは簡単なことではない。

 「中学生になったタイミングで娘が寮に入りましたが、娘が体調を崩してしまったり、大変なことは多かったですね。でも、すごくいろいろな方に助けてもらいました」

 -調教師試験に合格してからは、矢作厩舎で技術調教師として1年間の研修。

 「矢作先生にご相談に行った時に、今年は1年通して海外遠征もあるから、ずっといてもいいよとおっしゃってくださいました。すごくありがたかったですね。本当にいろいろなことを学ばせていただきました」

 -矢作厩舎のすごさをどこに感じたか。

 「海外遠征での強さはもちろんとして、矢作厩舎のすごさは一言で言えないような、本当にたくさんの要素があるなと感じました。その中で一つ挙げるとすれば、“全員が先生と同じ方向を向いている”というところですね。常日頃から先生は『あれこれ指示せずにどれだけ任せられるかがコツ』ということをおっしゃっていましたが、任せていても自然と厩舎スタッフの方々は先生と同じ方向を見ているんです。スタッフからもすごく好かれていますしね」

 -普段はどのようなことをして過ごしているのか。

 「昔はフィギュアスケートをしていました。でも今はもう、ずっとやらないといけないことをしています。馬具を注文したり、飛行機のチケットを取ったり…」

 -開業はいよいよ2カ月後。

 「さらに近づけば緊張感が増すかもしれませんが、今はとにかく地味にコツコツやっています。ワクワクというよりも、責任感の方が強いですね。やってみないと分からないことばかりですが、ちょうど5年前、坂口厩舎の立ち上げに携わることができたので、全くの初めてというわけでないのは心強いです」

 -座右の銘は。

 「“一期一会”ですね。馬主さんやスタッフの方もそうですが、特に馬と共有できる時間は短いので大切にしたいですね。失敗してしまうと取り返しがつかなくなることもありますし、本当に一瞬一瞬を大事にしていかなければいけないと思います」

 -どのような厩舎をつくっていきたいか。

 「馬主さんにとっても、スタッフにとっても、そして馬にとっても“楽しい厩舎”ですね。結果をきちんと出したいですし、スタッフにもやりがいを感じてほしい。馬も万全な状態で楽しく走ってほしいですね」

 -最後に意気込みを。

 「女性初だからといって、特に男性と違うというわけではないと思います。ただ、私が活躍して取り上げていただくことがあれば、競馬を知らない方にもこういう仕事があるんだなと知ってもらえるきっかけになるんじゃないかなと思います。女性にも目指してもらいたいですし、そういった役割を担えたらいいなと思っています」

 ◆前川恭子(まえかわ・きょうこ) 1977年4月9日、千葉県富里市出身。筑波大卒業後、北海道のビクトリーホースランチで2年間の勤務を経て、2003年7月にJRA競馬学校厩務員課程入学。同年10月、栗東・崎山博樹厩舎に厩務員として所属。04年2月に調教助手。田所秀孝厩舎を経て、19年3月から坂口智康厩舎で調教助手を務める。23年12月、調教師試験に合格してJRA初の女性調教師となった。家族は夫と高校生の娘。

提供:デイリースポーツ

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