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生前の近藤利一オーナーが「無事で」と願ったアドマイヤビルゴが8歳で現役引退 人の絆や競馬の奥深さを教えてくれた一頭

デイリースポーツ
  • 2025年01月10日(金) 18時37分
 2017年当歳セレクトセールで5億8000万円(税抜き)の値をつけたアドマイヤビルゴ(栗東・友道)が現役を引退した。5日の中山金杯16着がラストランになった。8歳だった。今後は北海道のノーザンホースパークで乗馬になるという。休養を挟みながらではあったが、20年1月のデビューから約5年の長い現役生活だった。

 私がこの馬を初めて目にしたのは17年7月11日。セレクトセール当歳セッション当日の会場だった。とにかく小柄だったが、顔がハンサムバランスのいい馬というのが第一印象。生前の近藤利一オーナーと親交が深かった僚紙・馬サブローの弥永記者から話を聞いていたこともあり、注目していた一頭だった。

 セリが始まると序盤から絶え間なく声が飛び、金額がみるみるつり上がった。億を超えてしばらくすると、里見治オーナーとの激しい“一騎打ち”に。3億、4億を超えてもなお上がり続ける状況に会場内がざわついたのを覚えている。最終的にはディープインパクト産駒史上最高となる5億8000万円(税抜き)でハンマーが落ちた。

 その後に行われた近藤オーナーと友道師の取材。オーナーは終始、上機嫌だった。06年のディナシー(牝、父キングカメハメハ母トゥザヴィクトリー)の6億円に次ぐ当時国内セリ史上2番目の高額落札に、「何が何でも欲しいと思っていた。興奮してもうて金額が分からんくなっちゃったな。正直言うて」と舌も滑らか。「きのうの打ち合わせから、友道が“この馬は諦めんといてほしい”と何べんも言うから」と、冗談とも本気ともつかない笑顔でウイットに富んだ裏話を披露していた。

 ところが、勝ちたいレースについて問われると一転して真剣な表情に。「ダービーを獲るとか、凱旋門賞に行くとか大げさなことは今、考えておりません。無事に出走を迎えてほしいです」。競馬に魅せられ、競走馬を愛するオーナーの心からの思いだった。そして、友道師への全幅の信頼を感じる言葉も。「調教師はたくさんいますが、これは友道に(預ける)という風に、はじめから決めていました」。2人の固い絆が垣間見えた瞬間だった。

 残念ながら、デビュー2カ月前の19年11月17日にオーナーは他界した。直後の12月8日に行われた香港マイルでは、僚馬で所有馬の一頭だった1歳上のアドマイヤマーズが見事に勝利。友道師は近藤オーナーがこの日のために仕立てていたスーツを着て、マーズが前年に朝日杯FSを制した際にオーナーが身に着けていたネクタイを締めて臨んだ。後日、指揮官にその話を聞いた際、亡きオーナーへの思いに触れて胸を熱くしたものだ。

 オーナーの遺言もあり、デビュー戦はビルゴの父ディープインパクトにレースで唯一騎乗経験のあるジョッキー・武豊騎手が鞍上に迎えられた。名手が久々に水色、白袖、青鋸歯形の勝負服に身を包んでレースに臨む姿に、ファンから歓声があがったのを思い出す。434キロの小柄な馬体を弾ませてV発進。2戦目に若葉Sを勝ってデビュー2連勝を決めた。クラシック出走はかなわなかったが、オープンで3勝をマーク。キャリアは22戦。オーナーが望んでコンビを組むことになった武豊騎手の手綱で全5勝を挙げたのも、ビルゴを語る上で欠かせない出来事だと感じる。

 小柄な馬体で時に60キロを背負って、北は札幌から南は小倉まで遠征。最後まで競走馬生活を全うできたのは、天国のオーナーが無事を願って見守ってくれたからだと思えてならない。重賞は未勝利に終わり、血統や落札額からファンが期待したキャリアではなかったのかもしれない。ただ、私にとっては、馬に関わる人と人の絆、一頭をきっかけに再びつながっていく縁など、競馬の魅力や奥深さを改めて教えてくれた競走馬だった。

 2戦目の若葉Sでは、普段はカメラマンに頼むことが多いレース写真を撮影。今でも大事にパソコンに取り置いているのが、この一枚だ。私の10数年の競馬記者生活でも、決して忘れることができない一頭。ぜひ、北海道に足を運び、第2の馬生を過ごすビルゴに感謝を伝えたい。(デイリースポーツ・大西修平)

提供:デイリースポーツ

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