黄金色の5冠馬が、雨煙る坂路を猛然と駆け上がっていく。
オルフェーヴルにとっては、これが現役ラストとなる追い切りだ。池添との呼吸を合わせ、人馬一体となって、4馬身先行させた
ダノンウィスラー(5歳1600万)を追走。ゴール直前まで体勢は不利だったが、最後に鼻腔(びこう)拡張テープ(ネーザル
ストリップ)が貼られた鼻先をグイッと突き出し、併入でフィニッシュを決めた。
「しっかりやれましたし、先週よりも今週の方が良かった。
凱旋門賞が
ピークだったでしょうし、さすがに過去最高の出来ではありませんが、状態は上がってきているなと感じましたよ」。池添は良化を口にした一方で、奥歯に物が挟まったような言い方をした。確かに動きを見る限り、怪物らしい暴力的なまでの迫力は影を潜めていた。
時計も4F52秒3-38秒4-12秒9と、攻め駆けするオルフェにしては、物足りない数字。池江師も「(ラスト1F)12秒台前半が出てないと。大人になったのか休み明けのせいなのか、動かないようになっている。先週よりはいい方にいっているけど、80点くらいかな」と合格点は与えたが、満点評価まではいかなかった。
絶好調ではないかもしれない。しかし、それで池添の自信が揺らぐことはない。「それでも、去年の
ジャパンC(
ジェンティルドンナと死闘を演じて2着)よりはいいですからね。順調ならいいんです」。完璧でなくても力が違う。そう言わんばかりに不安を打ち消した。
先週の1週前追い切りが行われた日に、わざわざ北海道へと飛び、来年デビュー予定の
オルフェーヴル全弟(牡1歳)に対面するなど、
有馬記念への気持ちを自ら高めてきた池添。「僕の騎手人生にとって、財産というか、かけがえのない馬。出会ってくれてありがとう、という思い。しっかりラストランを飾って、気持ち良く引退式を迎えたい」。感謝の念を手綱に込めて、最強パートナーを有終の美へと導く。
提供:デイリースポーツ