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秋華賞

  • 2008年10月20日(月) 13時00分
 平穏な結末を予測したファンは少なかったと思われるが、桜花賞、オークス、そして直前のローズSに続き、さらにもっと強烈な結果が待っていた。

 レースの中身はひとつも壊れていない。それどころか「58.6-59.8秒」の前後半で展開し1分58秒4。これはレースレコードに0.3秒差。スイープトウショウ=ヤマニンシュクルの04年と並び史上4位の記録は、歴代の中できわめてハイレベルとされる牝馬たちと並んでいるのである。少なくとも全然弱くない。

 この3歳世代の牝馬はみんな紙一重で、レースの度にまるで異なった結果をもたらしてしまう。だから、当てにならない、信頼できない世代とされてきた。事実、8月のクイーンSでは6歳ヤマニンメルベイユに手もなくひねられたりしたのだが(レジネッタ、エフティマイア、ムードインディゴなど)、振り返ると1分33秒8で決着した阪神JFも、馬場の荒れていた桜花賞の1分34秒4も、あまりに大接戦だったから弱そうに映った。ましてダイワスカーレット、ウオッカの翌年だから印象は良くなかったが、決してそんなに弱いわけでも、当てにならない馬ばかりそろっているわけではないのだろう。

 この世代には、いっぱい侮りがたい曲者が潜んでいると考えれば、まあこれからも当てになるものではないが、歴史に残る「役者ぞろいの世代」ではないかと認めることができる。最終的に賞金18番目で出走した伏兵プロヴィナージュは、途中から自分でペースを作りあわやの1分58秒6。自身で飛ばしての記録だからこれは文句なしである。最後は19番目で出走できなかったポルトフィーノも、直前の10レースを1600m1分32秒5で勝ってみせた。その前の9レースを1分45秒2で快勝したマルティンスタークも、同じくあと一歩の3着だったヤサシイキモチも、残念ながら900万の賞金のため18頭の枠からはみ出た馬だった。なんと、上位馬がなにかあって回避するなら……と狙っていた賞金不足の馬まで、実は侮れない役者ばかりだったのである。

 人気の中心トールポピーは、「素直にこの馬を◎にしておけば良かった…」と思わせるくらい素晴らしい気配だった。レースのあと陣営も首をかしげる10着(1分58秒9)にとどまったが、とくに決定的な敗因はないかもしれない。まったく不利はなかった。たまたま今回、もっと侮りがたい能力を爆発させた役者がほかにいっぱいいたというしかない。0.5秒差。例年、桜花賞と強く結びつくことが多いとされる秋華賞で、残念ながらトールポピーの着順、着差は桜花賞とほとんど同じである。

 一方、レジネッタは紙一重の力関係が今年の特徴としたら、その外のオディールとともに枠順の不利が大きかった。縦長になった向こう正面になってもずっと外。なおかつ前にカベを作ることができず、勝ったブラックエンブレムの少しもロスなしコース取りとはあまりに対照的だった。また、今回は変にチャカついてテンションも高すぎたろう。結果、めったに崩れない同馬は大きく着順を下げたが、トールポピーと、オディールともまったく同じ1分58秒9での入線。さすがにこれは偶然とはいえず、凡走とされる人気馬がそろって並んで入線したことにより、改めてこの世代の力関係がほんの紙一重であることを示す結果となってしまった。期待したレッドアゲートはオークスをはるかに上回る好気配。柔らかくみえた。この枠順ならフローラSのように行けるかとみていたが、出負け気味で内田騎手が気合を入れても行き脚がつかなかった。その時点で残念ながらアウト。

 ブラックエンブレムがオークス大接戦の4着馬なのに11番人気にとどまったのは、候補が10指にも余る中、15日の栗東坂路は時計を要したとはいえ、なにか不安のある馬をカットして候補を絞ろうとしている多くの記者に、好印象を与える追い切りではなかったことが大きい。しかし、桜花賞時の栗東入厩時は軽めにとどめるしかなかったことを考えれば、ビシッと追えたことで十分だった。願いどおりの良馬場で最高の内枠。岩田騎手の前は、パトロールフィルムを見ても終始ガラッと空いていた。勝ち馬にはこういう幸運も必要とされるが、今回は3着に快走したプロヴィナージュとの再度の栗東入り。小島茂之厩舎快心の、大逆転の秋華賞だった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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