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有馬記念

  • 2008年12月29日(月) 13時20分
 最初、有馬記念当日の安藤勝己騎手は「ダイワスカーレット1頭」にしか騎乗しないと伝えられたとき、冬場で体調でもすぐれないのか。少し心配した。だが、ダイワスカーレットにまたがった安藤勝己騎手をみて、たちどころにそうではないことが判明した。安藤勝己騎手はこの日、あくまでダイワスカーレットとだけ一心でいたかったのである。

 ほかの馬に直前まで乗っていては、心身のリズムが崩れるかもしれない。アクシデントに巻き込まれないとも限らない。ダイワスカーレットに騎乗するには、自身がダイワスカーレットになってしまう必要があった。その能力を全面的に信頼しているというより、スカーレットに畏敬の念さえ抱いていたのである。

 レースの中身は前半の1000m通過「59.6秒」。そのあとみんな動いてはならない中間地点でひと息入れ、後半1000mはまた自分でペースをあげて「59.8秒」。

 距離もコースも異なるとはいえ、天皇賞・秋2000mでは自身も少し行きたがり、なおかつ他馬に苦しい流れを強いられたダイワスカーレットにとって、有馬記念の2500mはまるで計算されつくしたかのような、はるかに楽な流れだった。

 距離区分では明らかな長距離中山2500mは、独特のコース形態によって「波乱」の創り出されるパターンがはっきりしている。今回のダイワスカーレットの逃げ切りに象徴されるようなラップのバランスは珍しくない。というより、主導権を握った馬が自分から再スパートして逃げ込むレースは再三のことでもある。

 好位から中団に位置することになった馬、あるいは後方追走になった馬は、レースの主導権を握っているライバル向きの流れに陥ったと分かったとき、小回りの中山ゆえ早めにスパートを開始しなければならない。高額条件のレースほど3コーナーにさしかかる手前あたりから後続の進出が始まる。でなければ届かない。

 でも、もうこの時点で負けは確定している。3コーナー手前の進出を開始したくなる(せざるを得ない)地点とは、残り4Fの標識あたりである。ここから一気にスパートを開始し、なおかつ外を回って勝つ馬がいないことはない。ディープインパクトが見せた内容である。東京だと残り4F地点(だいたい木立のあたり)から外を回ってスパート開始の差し、追い込み馬がきれいに末脚を爆発させることは少しも珍しくない。しかし、東京では進出を開始したとはいっても、残り4Fからエンジン全開の馬はいない。徐々にペースを上げていけばいい。

 ところが、コーナーのきつい小回りの中山では、徐々にピッチを上げていたのでは外を回るロスもあって先頭の馬との差は少しも詰らない。急速にエンジンの回転を上げることを余儀なくされる。しかし残念ながら、ようやく追いつき並びかけようとしたところに急坂が待っている。3コーナー手前からスパートせざるを得ない形になってしまっただいたいの馬は止まる。

 そのとき2着や3着に突っ込んで届くのは、3コーナー手前ではまだ動いていない(人気馬ではないゆえ、あせって強引なスパートをかける必要のない)馬。今回の有馬記念でいえば、最後方追走から最後にスパートしたアドマイヤモナークだったのである。

 アドマイヤモナークを3着のところにマークしたスタッフや記者は(わたしも含めて)かなりいた。でも、2着には点数が多くなりすぎるからマークしきれない。

 有力馬や伏兵の大半が、中山の2500mだからこそ起こりえる「追い上げ退く」の短評にぴったりのレース内容になってしまった。マツリダゴッホ、スクリーンヒーロー、フローテーションなどその典型で、アルナスライン、ドリームジャーニーなども動かざるを得ない位置取りと立場になった結果、あと一歩の伸び不足だったのだろう。

 もっとも、マツリダゴッホの場合は、外枠とあってスタート直後に外に振り回される形になったのが不運。自身は折り合いを欠き、こういうメンバー(騎手)だから、だれも途中でインにもぐりこませる隙などみせてくれなかった。メイショウサムソンは早めに2〜3番手で流れに乗ったものの、サムソンにしては前半の制御がもうひとつ利かず行きたがった雰囲気での先行で、人馬ともに残念ながら本来の姿ではなかったかもしれない。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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