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フェブラリーS

  • 2010年02月22日(月) 17時52分
 チャンピオン=エスポワールシチーの完勝。かけられた期待をさらに上回ってみせるほどの圧勝だった。普段の調教から手を離さず、エスポワールシチーをさらに高いところへ導こうとしているのが、コンビの佐藤哲三騎手であることは良く知られる。エスポワールシチーに求めた大きなテーマの1つは、「エスポが自分を全面的に信頼してくれること」。

 ペースを上げようか。もう少しスパートを我慢しようか。納得の合図を送るまでお互いが我慢し合うことだったとされる。

 ダートに方向転換した初戦を1700m「1分42秒4」。日本レコードと大差ない時計で独走したエスポワールシチーには圧倒的なスピード能力が秘められている。だいたい先行型のダート巧者はグイグイ行きたがる。そのスピードをフルに生かしてもっと高いところへ達するには、エスポワールシチー自身もレース巧者になる必要があった。

 ローレルゲレイロが先手を主張して作ったペースは前半「34.8-47.0秒…」。昨年エスポワールシチーが作った「35.1-47.0秒…」と前半の800mまではほとんど同一にも近い流れ。これをスタートして2F目から早くも2番手につけたエスポワールシチーは我慢して楽々と追走している。昨年、まだ逃げ一手で並ばれるのを嫌った同馬は、敢えてそこから「11.8-11.3秒」と引き離しにでたが、今年のローレルゲレイロは息を入れたい地点だから「12.2-12.1秒」。昨年の1200m通過が「1分10秒1」だったのに対し、今年は、まだ馬なりのまま先頭に並んだエスポワールシチーの1200m通過地点は「1分11秒3」だった。

 抜け出した瞬間、「さあスパートしよう」のムチが1回だけ飛んだようにも見えたが、単なる合図の見せムチだったかもしれない。そのあと200mぐらいは全力スパートに入った(11.6秒)が、残り200mはもうほとんど馬なり。半ば強引に飛ばして粘り、精いっぱいだった昨年が1分34秒8。それと同一にも等しい「1分34秒9」を、今年は楽々と記録することに成功している。昨年は最後の400mに「24.7秒」を要したのに対し、今年は余裕さえ残して「23.6秒」。これで特徴の異なる各地のダートGI(格)のレースを、船橋、盛岡、阪神、東京…と場所を移して4連勝。ドバイのオールウェザートラックに挑戦するのか、それとも……。挑戦のレースは未定とされるが、エスポワールシチーは佐藤哲三騎手が思い描いた通り、全面的に信頼し合う「人馬」になりつつあり、もっと強い相手を求める挑戦者に育ってきた。

 ダートの「ハイレベル世代」を代表してテスタマッタが直線インから力強く伸びて2着。この流れではインコースを死守せざるを得ない3番枠だから、再三前が詰まり気味になる場面もあったが、初ダートだった東京1400mで上がり34秒台の猛烈な追い込みを決めたくらいだから切れ味は抜群。馬群をさばいてからは猛然と伸びてきた。もうノドは心配ない。ベストは1400〜1600m前後のスピード型と思えるが、大井の2000mでシルクメビウス以下を完封して「ジャパンダートダービー」を制しているから、こなせる距離の幅はもっと広いのかもしれない。

 サクセスブロッケンは素晴らしい体になっていた。また、途中でムキになって行きたがる面もほとんど見せなかった。内田博幸騎手が故障ブランク明けで、この週はまだ「ひと鞍」限定の騎乗だった苦しい状況を考慮すると、負けはしたが昨年の勝ち馬らしいところは十分に示しただろう。同期のライバルー=エスポワールシチーにはこれで3連敗となったが、負けたときの体調、そして今回の置かれた状況など考えると、まだ決定的な差が生じたとまではいえない。

 3番人気レッドスパーダ、4番人気リーチザクラウンは、それは初めてのダート挑戦がエスポワールシチー、サクセスブロッケン相手では苦しくとも、もう少し差のないレースに持ち込めるとみていたが、ここまで凡走するとは予想外だった。ダート初挑戦組は「苦戦することになっている」。例によって、そういうふうに結論付けるのは容易だが、なんの不利もなかったレッドスパーダ(前回の芝では1分32秒1)が、直線はもうあきらめたとはいえ1分38秒4(500万条件級)に失速は分からない。リーチザクラウンも進出しかけたところで止まって1分37秒6。レッドスパーダ陣営も、リーチザクラウン陣営も、半信半疑というより「好勝負になる可能性大」の読みがあっての挑戦であり、今回の凡走は単なる期待外れとは意味が違っている。ここは改めて考え直してみたい。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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