スマートフォン版へ

NHKマイルC

  • 2010年05月10日(月) 23時59分
 日本レコードが生まれるには、メンバー全体のレベル、レースの流れ、そして馬場コンディション。すべてプラスに重ならないと難しいが、それにしても驚くべき高速の1600mレコードが樹立されたものである。

 「まさか四位騎手(ダービーではルーラーシップに騎乗予定)の描いた深遠な作戦にはまったのではないか? 」などという穏やかではない感想(冗談)がもれたほど、猛ペースの流れが作り出された。最初は下り坂が続くため、どうしても前半のペースが速くなりがちな中山の芝1600mならともかく、東京の1600mで「33.4-44.8-56.3秒…」は古馬GIの「安田記念」でもありえない猛ペースの先導。直後の古馬1000万下の最終レースが同じ芝1600m。たまたま超スローだったとはいえ、「36.4-48.4-60.4秒…」なので、1000m通過地点でなんと「4.1秒(20数馬身ぐらい)」も異なっているのである。

 安藤勝己騎手は「数字とか相手の脚質とか、そういうことはあまり考えない」「VTRもあまり見ない(煙幕の嘘かも知れないが)」と、以前から公言するくらいで、時にエリザベス女王杯のブエナビスタ事件もあったりするが、いきなり縦長になった猛ペースを少しもあわてるふうもなく離され気味の後方3番手。松田国英調教師が「さすがのペース判断。1番人気馬であそこから行くのなどふつうはできない」とレース直後に絶賛したと伝えられるが、まるで暴ペースを読み切ったかのような判断だった。ベテランの体に沁みこんでいる、変調ムードのレースの風がもたらす感覚だったろう。

 勝ったダノンシャンティ自身のレース前後半バランスは推定「46.6-44.8秒」=1分31秒4。ハイペースの1600mの経験がなかったこの馬には、いきなり大きくはリズムを変えないない理想の追走になった。といって、慣れない1600m、ダノンシャンティにはこれまでとは一変の厳しい流れ追走だったはずで、自身の1000m通過は「57.9秒」の計算。それで上がり3F「33.5秒」。刈りこまれた高速の芝コンディションとはいえ、これは「ただ前が猛ペースで引っ張ったから…」では説明できない高いスピード能力、総合力の証明である。ゴール寸前、必死でやっと届いたというフットワークでもなかった。

 逃げたエーシンダックマンは、このペースでは4コーナーを回った地点でしんがり確定だが、人気のサンライズプリンスは結果としてこのペースに巻き込まれてしまった。1600mは2回目。あまりもまれたくない内枠とあって気合を入れ気味のスタートで、好ダッシュ。素早く好位のインに収まったかに見えたが、最初からリズムを崩しかねないペースは2F目から「10.4-10.9秒」。さすがに少し引こうとしたが、悪いことにすぐ外のキングレオポルドは少しかかり気味「スタートが良すぎて前に壁を作れなかった…伊藤工真騎手」。内のコスモセンサーも並んでのハイペース追走に陥った。

 追い込みにくい高速の芝コンディションだったとはいえ、サンライズプリンスは「56.7-35.2秒」。抜け出した地点でもう余力はなかった。このペースを早め先頭で1分31秒9だから、自身も高い能力を発揮して従来の東京1600mのレコードを上回ったが、結果はハイペースに翻弄された形の4着失速だった。

 前半7〜8番手のインで我慢し、4コーナーでもスパートを待ったダイワバーバリアンは、1度は先頭に躍り出る絶妙のレース運び。中身は勝ったにも等しい2着。一連のレースではあとワンパンチ不足の善戦が続いたが、この内容は成長、発展だろう。ただ、距離適性を重視し、こちらはダービーには向かわないという。

 ダイワバーバリアンの直後で、これもうまく流れに乗ったリルダヴァルが惜しい3着。休み明け3戦目。最初は少し無理を承知でクラシック路線に復帰したムードもあったが、使いつつ確実に良化した。だから少しも線は細くない。ダービーは賞金から無理でも、たちまちマイル〜中距離路線の重賞に手が届く。

 問題は、NHKマイルC創設当時からいわれているように、3歳のこの時期に厳しい流れのマイル戦を速いタイムで乗り切ってしまうと、8割、いや9割方の馬がリズムを壊してスランプに陥ること。古馬とて今回のように、(高速の芝だったとはいえ)極限のレコード決着のあとは疲れが出るケースが多い。マイル戦激走の反動は間違いなくある。ダノンシャンティも、サンライズプリンスも、3週後が大目標の「ダービー」。疲れをとりつつ、納得の状態にもっていくことができるだろうか。緩める時期ではないから厳しい。サンライズプリンスは1月デビューで、次は6戦目。日程はかなりきつい。ダノンシャンティもレース運びは楽だったが、松田国英厩舎のエース格にしては今回、やけに体が仕上がり切っていた印象がなくもない。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング