競輪
ヴィクトリアマイル
- 2010年05月17日(月) 23時59分
直線、大外から猛然と伸びて1分32秒4。奇しくも昨09年のウオッカと同じ勝ち時計。自身の上がり3Fは33.5秒。単勝1.5倍の断然人気に応えたブエナビスタのGI「4勝目」はもちろん絶賛に値する勝利だが、後年、記録として残る数字とは別に、ブエナビスタ自身にはとって非常に苦しい1勝だった。
ドバイから帰って輸入・帰国検疫を済ませ、栗東に戻ったのは4月29日。着地検疫は山元トレセンを利用してのものだけに、最初からヴィクトリアマイルを展望の入念な乗り込みを重ねる手法がとられ、仕上がりに一応は不安なし。ただ、日程に余裕がなかったのは確かで、この日の馬体は良く言えば一切のムダを取り除いた究極の仕上がり。あと一歩でピーク過ぎにも転落しかねないギリギリの状態だった。仮に100点満点の状態があるとしたら、85点ぐらいではないかと思える。
ブエナビスタは、心肺機能や柔らかな筋肉の優秀性とは別に、環境の変化など少しも苦にしない精神面の強さが最大の長所。それはこれまでも言われてきたが、まさに今回はその精神力が勝利を呼び込んだ印象が強い。本馬場に入ったあと、よほどの入れ込みや興奮状態にない限り、スタンド側のラチ沿いを歩かせるのが横山典弘騎手、武豊騎手、以前には的場均騎手などが取り入れた返し馬に入る前の手法だが、あれはラチ沿いにいるファンに対するサービスではない。高揚して走り出したライバルとは一線を画し、動じない精神を互いに再確認しつつ、「これから展開されるレースの主役はお前なのだ」。鞍上が騎乗馬に与える指令の儀式である。落ち着け。気を静めろ。動じることなど一つもないのだ、と。今回のブエナビスタにも当然そうしたが、久しぶりの東京コース(まだ2回目)のためか、あまりスムーズではなかった印象がある。
着差通り、辛勝だった。ゴール寸前の脚さばきはもう鋭くなく、ストライドは鈍っていた。それでも「クビ」だけ差し切ったから、ブエナビスタは凄い。周囲のスタッフが思わずもらした「偉い馬だな…」は、まったくその通りであると思えた。確認のために正面からのパトロールフィルムを見て驚いた。もうストライドの伸びが止まり、いっぱいの脚いろに映ったブエナビスタは、それでも内にも外にも少しもよれていない。ゴール寸前も一直線だった。ディープインパクトの直線もそうだったが、苦しい最後の全力疾走になると多くの馬が多少は右へ、あるいは左へと中心が動くのは珍しくない。ブエナビスタは体全体のバランスが抜群なのだろう。
ヒカルアマランサスは惜しかった。好位のインで流れに乗ることに成功。とりわけ高速決着の目立つここ1〜2週の東京、前半「33.8-45.5-57.5秒…」というベストロケーション＝ブラボーデイジーの作ったペースは、ふつうなら厳しいハイペースの数字だが、前週のNHKマイルCは「33.4-44.8-56.3秒…」だから、そこまでの猛ペースではない。その流れに乗り、ヒカルアマランサスの前半5F通過は「58.1秒」。絶妙の位置取りとなり、坂上までスパートを待っている。内外離れてのフィニッシュは、ゴール寸前まで勝ったとも思える内容だった。
ニシノブルームーンは、本当はもう少し前に位置したかっただろうが、いつもよりだいぶ後方になり直線も前が開かなかった。突っ込んだのはもう勝敗の帰趨がみえてから、最後の50mくらい。前崩れの展開ではなく、まだ伸びる脚は十分にあったと思えるだけに、ヒカルアマランサスとともにこちらも大魚を逸した惜敗だった。
レッドディザイアは、ブエナビスタ以上に帰国後の仕上がりが心配されていた。そこで離れた2番人気にとどまっている。この日、細化していた馬体はほぼ回復していたが、ブエナビスタと同様、点数をつけるならやはり85点ぐらいだったろう。結果、あと一歩伸び切れずの4着に終わったとはいえ、さすがである。ドバイの2戦目は明らかに「滞在2戦目」の体調下降も体重減もあったことが推測される。短期間でここまで回復は、苦心の仕上げだった。ブエナビスタもレッドディザイアも帰国して間もない今回は仕上げが難しく、決して完調ではなかった。だが、精神面では明らかにタフになっている。遠征のプラスをこのあとにつなげたい。
馬場状態や、予測された通りあまり速い流れにならなかった展開は、ラドラーダ向きと思えたが、さびしく映るマイナス4�圈�だいたいがいつもギリギリで、非力に見える線の細さが死角の馬だけに、数字はわずかでもこの体重減は痛かった。スタートもうまく決まらず、道中はほぼ最後方。流れに乗り遅れた時点で苦しかった。
先行した伏兵も、注文をつけてしんがり一気のミクロコスモスもほとんど微差。9着までが「0.2秒差」。したがって、レースレーティングは「1分32秒4」のGIのわりに高くないと思えるが、それとは別に、ブエナビスタの勝負強さ、精神力の強さが改めて浮き彫りに光った一戦だった。苦しい辛勝のはずが、レース直後にはたちまち優しい目に戻っている。血走っていないからすごい。
ドバイから帰って輸入・帰国検疫を済ませ、栗東に戻ったのは4月29日。着地検疫は山元トレセンを利用してのものだけに、最初からヴィクトリアマイルを展望の入念な乗り込みを重ねる手法がとられ、仕上がりに一応は不安なし。ただ、日程に余裕がなかったのは確かで、この日の馬体は良く言えば一切のムダを取り除いた究極の仕上がり。あと一歩でピーク過ぎにも転落しかねないギリギリの状態だった。仮に100点満点の状態があるとしたら、85点ぐらいではないかと思える。
ブエナビスタは、心肺機能や柔らかな筋肉の優秀性とは別に、環境の変化など少しも苦にしない精神面の強さが最大の長所。それはこれまでも言われてきたが、まさに今回はその精神力が勝利を呼び込んだ印象が強い。本馬場に入ったあと、よほどの入れ込みや興奮状態にない限り、スタンド側のラチ沿いを歩かせるのが横山典弘騎手、武豊騎手、以前には的場均騎手などが取り入れた返し馬に入る前の手法だが、あれはラチ沿いにいるファンに対するサービスではない。高揚して走り出したライバルとは一線を画し、動じない精神を互いに再確認しつつ、「これから展開されるレースの主役はお前なのだ」。鞍上が騎乗馬に与える指令の儀式である。落ち着け。気を静めろ。動じることなど一つもないのだ、と。今回のブエナビスタにも当然そうしたが、久しぶりの東京コース(まだ2回目)のためか、あまりスムーズではなかった印象がある。
着差通り、辛勝だった。ゴール寸前の脚さばきはもう鋭くなく、ストライドは鈍っていた。それでも「クビ」だけ差し切ったから、ブエナビスタは凄い。周囲のスタッフが思わずもらした「偉い馬だな…」は、まったくその通りであると思えた。確認のために正面からのパトロールフィルムを見て驚いた。もうストライドの伸びが止まり、いっぱいの脚いろに映ったブエナビスタは、それでも内にも外にも少しもよれていない。ゴール寸前も一直線だった。ディープインパクトの直線もそうだったが、苦しい最後の全力疾走になると多くの馬が多少は右へ、あるいは左へと中心が動くのは珍しくない。ブエナビスタは体全体のバランスが抜群なのだろう。
ヒカルアマランサスは惜しかった。好位のインで流れに乗ることに成功。とりわけ高速決着の目立つここ1〜2週の東京、前半「33.8-45.5-57.5秒…」というベストロケーション＝ブラボーデイジーの作ったペースは、ふつうなら厳しいハイペースの数字だが、前週のNHKマイルCは「33.4-44.8-56.3秒…」だから、そこまでの猛ペースではない。その流れに乗り、ヒカルアマランサスの前半5F通過は「58.1秒」。絶妙の位置取りとなり、坂上までスパートを待っている。内外離れてのフィニッシュは、ゴール寸前まで勝ったとも思える内容だった。
ニシノブルームーンは、本当はもう少し前に位置したかっただろうが、いつもよりだいぶ後方になり直線も前が開かなかった。突っ込んだのはもう勝敗の帰趨がみえてから、最後の50mくらい。前崩れの展開ではなく、まだ伸びる脚は十分にあったと思えるだけに、ヒカルアマランサスとともにこちらも大魚を逸した惜敗だった。
レッドディザイアは、ブエナビスタ以上に帰国後の仕上がりが心配されていた。そこで離れた2番人気にとどまっている。この日、細化していた馬体はほぼ回復していたが、ブエナビスタと同様、点数をつけるならやはり85点ぐらいだったろう。結果、あと一歩伸び切れずの4着に終わったとはいえ、さすがである。ドバイの2戦目は明らかに「滞在2戦目」の体調下降も体重減もあったことが推測される。短期間でここまで回復は、苦心の仕上げだった。ブエナビスタもレッドディザイアも帰国して間もない今回は仕上げが難しく、決して完調ではなかった。だが、精神面では明らかにタフになっている。遠征のプラスをこのあとにつなげたい。
馬場状態や、予測された通りあまり速い流れにならなかった展開は、ラドラーダ向きと思えたが、さびしく映るマイナス4�圈�だいたいがいつもギリギリで、非力に見える線の細さが死角の馬だけに、数字はわずかでもこの体重減は痛かった。スタートもうまく決まらず、道中はほぼ最後方。流れに乗り遅れた時点で苦しかった。
先行した伏兵も、注文をつけてしんがり一気のミクロコスモスもほとんど微差。9着までが「0.2秒差」。したがって、レースレーティングは「1分32秒4」のGIのわりに高くないと思えるが、それとは別に、ブエナビスタの勝負強さ、精神力の強さが改めて浮き彫りに光った一戦だった。苦しい辛勝のはずが、レース直後にはたちまち優しい目に戻っている。血走っていないからすごい。
1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。
