競輪
日本ダービー
- 2010年05月31日(月) 17時50分
支持率を別にすれば、皐月賞を小差3着のエイシンフラッシュ(父キングズベスト)が鮮やかに逆転勝ちし、同じように皐月賞4着(0.2秒差)ローズキングダム(父キングカメハメハ)が巻き返して2着。皐月賞を制したヴィクトワールピサ(父ネオユニヴァース)は、もうひとつ伸び切れず3着。記録として残る数字は、大波乱というほどの逆転劇ではなかったかもしれない。しかし、それにしても難しい中身の「日本ダービー」だった。
とくに強力な先行馬のいない組み合わせ。レース前からスローの展開が予測されたが、ハナを切るつもりはなかったC.ウィリアムズ騎手のアリゼオ、単勝300倍のシャインが押し出されるようにペースメーカーを務めることになり、前半1000m通過「61.6秒」。ここまでは時折生じるスローだったが、そのあとさらにペースが落ちて連続ハロン「13秒台」。1600m通過はなんと「1分41秒1」。途中から信じがたい超スローに陥っていた。極悪馬場の昨年が1600m通過は「1分39秒3」であり、06年アドマイヤメインが歩くような超スローに持ち込んだ年でさえ「1分40秒6」。
3コーナー過ぎ、木立の向こうで18頭が6〜7馬身差以内と思える「ひと固まり」になったのも納得。そろそろスパート開始の3コーナー付近の1600m通過「1分41秒1」という流れは、おそらくこの駄文を読んでくれている若いファンの生まれるよりはるか以前、1971年、シバクサという馬がペースを作り、ヒカルイマイがごぼう抜きの直線一気を決めたときの「1分41秒3」以来のこと。40年近くも以前の、遠い歴史の中に没していたペースが再現されたのである。芝の状態など現在とはまるで異なり、28頭立ての馬群が「土けむりの中」を走っていた時代のことである。
40年も前の歴史的なペースで流れたあと、突然、現実の勝負は21世紀の良馬場。快レコードの出る高速の芝だから、残り800mは「45.8-33.4-11.3秒」。一転、新潟の直線1000mを思わせるレースに変わってしまった。大半の馬が自身の上がり3Fは「33秒台前半」でまとめながら、見た目には失速にも映りかねない究極のスプリント決着。残り400mくらいの追い比べに持ち込まれている。
勝ったエイシンフラッシュは、スローの流れに乗って先行したわけでもない。道中の位置取りは10番手前後で、ヴィクトワールピサも、ローズキングダムも、ヒルノダムールも、出負けしたペルーサも3コーナーではさして差のない位置にいた。エイシンフラッシュは上位馬の中で、坂を上がるまで仕掛けを我慢し(抜け出すと気を抜く)、最後の最後にスパートした馬だった。上がり3Fの数字は「32.7秒」。当然、10秒台のラップが2回連続している。これまでそうは速い脚がないようにみえたエイシンフラッシュ(内田博幸騎手もこういう上がりだけのレースは歓迎していなかった)は、実際には、1〜2Fに集約される究極のスピード能力を兼ね備えていたのである。
直前にザ石のアクシデント。こじんまり見せる体つきから、皐月賞4着のローズキングダムはまた人気を下げることになったが、一瞬は勝ったかとも思える反撃に成功。勝ち馬とはわずかクビ差だった。橋口調教師のダービー制覇に向ける執念が実ったかに見えたが、これで管理馬4頭目の2着。ローズキングダム(後藤浩輝騎手)は力を出し切っている。おそらく満点の騎乗。結果的に超スローで展開した流れも味方したが、あと一歩及ばなかった。「相手を誉めるしかない。また、来年だ…」。
ヴィクトワールピサは有力馬の中ではもっとも前につけることに成功。ペースが急転した4コーナーから坂下にかけインで詰まるようなシーンもあり、また、自身はトップスピードに乗る瞬間にささり気味になるロスもあったが、上のアサクサデンエン、スウィフトカレントとはちょっと違って父ネオユニヴァースに似た特徴大なのだろう。こういうスプリント戦のような決着は歓迎ではない。脚を余しての3着ではないから仕方がない。
皐月賞2着のヒルノダムールは、今回の輸送直前の馬体重は484�圈�それが当日は462�圈�少しも細くは見せずシャープな好馬体に見えたが、輸送で馬体が大きく減ってしまうのだろうか。「若駒S」では上がり3F33.1秒。今回も自身は33.3秒を記録しているが、ヴィクトワールピサと同様、それ以上の爆発力はなかった。
ペルーサは、表面上は落ち着いているように見せたが、ダービー独特の雰囲気が平気なほどはまだたくましくはなかった。内面は激しく動揺して集中力を欠いたのだろう。超のつく歴史的なスローだから、出遅れたことも、3コーナーで少し動いたことも致命的なロスではない。橋口調教師のダービー[0-4-1-12]と同様、藤沢和調教師のダービーはこれで[0-2-1-11]。来年こそは…、この次はきっと…。ダービーだからみんなそう思い直すしかない。
ハイレベルとされた今年の「ダービー」。約40年も前と同じ、歴史的な(異常な)スローで展開したから、ホントにこの世代のレベルが高いかどうかの結論は秋になるまで持ち越し。ただ、ここまで緩い流れをみんなごく自然に受け入れてしまったあたり、改めて高い能力を示すには、他世代のリード(援助)を必要とする世代なのだろう。
とくに強力な先行馬のいない組み合わせ。レース前からスローの展開が予測されたが、ハナを切るつもりはなかったC.ウィリアムズ騎手のアリゼオ、単勝300倍のシャインが押し出されるようにペースメーカーを務めることになり、前半1000m通過「61.6秒」。ここまでは時折生じるスローだったが、そのあとさらにペースが落ちて連続ハロン「13秒台」。1600m通過はなんと「1分41秒1」。途中から信じがたい超スローに陥っていた。極悪馬場の昨年が1600m通過は「1分39秒3」であり、06年アドマイヤメインが歩くような超スローに持ち込んだ年でさえ「1分40秒6」。
3コーナー過ぎ、木立の向こうで18頭が6〜7馬身差以内と思える「ひと固まり」になったのも納得。そろそろスパート開始の3コーナー付近の1600m通過「1分41秒1」という流れは、おそらくこの駄文を読んでくれている若いファンの生まれるよりはるか以前、1971年、シバクサという馬がペースを作り、ヒカルイマイがごぼう抜きの直線一気を決めたときの「1分41秒3」以来のこと。40年近くも以前の、遠い歴史の中に没していたペースが再現されたのである。芝の状態など現在とはまるで異なり、28頭立ての馬群が「土けむりの中」を走っていた時代のことである。
40年も前の歴史的なペースで流れたあと、突然、現実の勝負は21世紀の良馬場。快レコードの出る高速の芝だから、残り800mは「45.8-33.4-11.3秒」。一転、新潟の直線1000mを思わせるレースに変わってしまった。大半の馬が自身の上がり3Fは「33秒台前半」でまとめながら、見た目には失速にも映りかねない究極のスプリント決着。残り400mくらいの追い比べに持ち込まれている。
勝ったエイシンフラッシュは、スローの流れに乗って先行したわけでもない。道中の位置取りは10番手前後で、ヴィクトワールピサも、ローズキングダムも、ヒルノダムールも、出負けしたペルーサも3コーナーではさして差のない位置にいた。エイシンフラッシュは上位馬の中で、坂を上がるまで仕掛けを我慢し(抜け出すと気を抜く)、最後の最後にスパートした馬だった。上がり3Fの数字は「32.7秒」。当然、10秒台のラップが2回連続している。これまでそうは速い脚がないようにみえたエイシンフラッシュ(内田博幸騎手もこういう上がりだけのレースは歓迎していなかった)は、実際には、1〜2Fに集約される究極のスピード能力を兼ね備えていたのである。
直前にザ石のアクシデント。こじんまり見せる体つきから、皐月賞4着のローズキングダムはまた人気を下げることになったが、一瞬は勝ったかとも思える反撃に成功。勝ち馬とはわずかクビ差だった。橋口調教師のダービー制覇に向ける執念が実ったかに見えたが、これで管理馬4頭目の2着。ローズキングダム(後藤浩輝騎手)は力を出し切っている。おそらく満点の騎乗。結果的に超スローで展開した流れも味方したが、あと一歩及ばなかった。「相手を誉めるしかない。また、来年だ…」。
ヴィクトワールピサは有力馬の中ではもっとも前につけることに成功。ペースが急転した4コーナーから坂下にかけインで詰まるようなシーンもあり、また、自身はトップスピードに乗る瞬間にささり気味になるロスもあったが、上のアサクサデンエン、スウィフトカレントとはちょっと違って父ネオユニヴァースに似た特徴大なのだろう。こういうスプリント戦のような決着は歓迎ではない。脚を余しての3着ではないから仕方がない。
皐月賞2着のヒルノダムールは、今回の輸送直前の馬体重は484�圈�それが当日は462�圈�少しも細くは見せずシャープな好馬体に見えたが、輸送で馬体が大きく減ってしまうのだろうか。「若駒S」では上がり3F33.1秒。今回も自身は33.3秒を記録しているが、ヴィクトワールピサと同様、それ以上の爆発力はなかった。
ペルーサは、表面上は落ち着いているように見せたが、ダービー独特の雰囲気が平気なほどはまだたくましくはなかった。内面は激しく動揺して集中力を欠いたのだろう。超のつく歴史的なスローだから、出遅れたことも、3コーナーで少し動いたことも致命的なロスではない。橋口調教師のダービー[0-4-1-12]と同様、藤沢和調教師のダービーはこれで[0-2-1-11]。来年こそは…、この次はきっと…。ダービーだからみんなそう思い直すしかない。
ハイレベルとされた今年の「ダービー」。約40年も前と同じ、歴史的な(異常な)スローで展開したから、ホントにこの世代のレベルが高いかどうかの結論は秋になるまで持ち越し。ただ、ここまで緩い流れをみんなごく自然に受け入れてしまったあたり、改めて高い能力を示すには、他世代のリード(援助)を必要とする世代なのだろう。
1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。
