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激甚災害

  • 2011年03月16日(水) 00時00分
おじゃ馬します

普段は静かな浦河も一気に騒然とした雰囲気に(写真・浦河港近くの光景)


 3月11日(金)の午後に発生した大地震は、その後、青森から千葉に至る500キロもの海岸線に大津波が押し寄せたことにより、さらに被害を甚大なものにしてしまった。

 地震発生直後より、ここ北海道日高にも大津波警報が発令され、浦河でも多くの町民がその日、町の高台にあるスポーツセンターなどで一夜を過ごした。

 津波の高さは6〜8メートルと予測され、海岸線に沿って東西に走る国道はすぐに通行止めの措置が取られた。JR日高本線も、私宅から500mの距離にある絵笛駅に停車した列車が、そのまま動けずに夜を明かしていた。

 サイレン音とスピーカーから聞こえてくる避難を呼びかける声がひっきりなしに続き、普段は静かなこの浦河も、一気に騒然とした雰囲気になった。

 結果的に、津波は2.8メートルの高さで済んだため、被害は確かに出たものの、三陸沿岸などから比べたら軽微なもので、人的被害は(たぶん)皆無である。地震発生の後、様々な方からお見舞いの電話やメールをいただいたのだが、かえって申し訳なく感じるくらいに、牧場地帯に被害は出ていない。

 以来、今日で6日目になる。続々と各地の被害状況が明らかになってくるにつれ、私たちの想像をはるかに超える広範囲に大津波が押し寄せたことが分かってきた。地震による揺れ自体は、それほど大きな被害を出さないものの、地震発生後の大津波と火災がこの激甚被害をもたらした要因だ。連日、テレビは被災地の様子を伝えているが、何度見ても絶句してしまう凄まじい光景である。

 しかし、厄災はそれだけに止まらず、今度は福島県下の原子力発電所がにわかにクローズアップされている。関東地方に供給する発電量に重大な支障が生じているという。

 電車が止まり、各地の工場や事業所が稼動できなくなっていることにより、物流が滞る。その結果、末端の小売店では食料品や電池、携帯ラジオ、懐中電灯などが極端な品薄になり始めているとか。加えて、原発事故による放射能汚染の恐怖と隣り合わせで暮らす「新たな被災者」まで出てきている。未曾有の国難に直面していると言わざるを得ない。

 そんな中、競馬を再開できるのだろうか。今思えば、同じ激甚災害とはいえ、阪神淡路の大震災はまだ範囲が局地的であった。しかし、今回は、その被害の甚大さと範囲の広さ、加えて原発事故による二次被害(しかもまだ終息しておらず今後拡大する可能性が大きい)など考えると、国家の屋台骨を揺るがす重篤な事態に陥っていると考えざるを得ない。

 「馬の移動(北海道〜本州)にも影響が出てきています。これから競馬は春のクラシックシーズンですから書き入れ時なんですが、まず、本当に再開できるのかどうか疑問ですね」と、ある育成牧場の場主は不安を口にする。トレセン〜競馬場間の移動でさえ支障が生じているのに、北海道から本州方面への馬の移動など当面は無理だろう、とその場主は語る。

生産地だより

想像をはるかに超える広範囲に大津波が押し寄せたことが分かってきた(写真・浦河港近くの光景)


 確かに、生活関連物資の物流が滞っているのに、競走馬など運んでいても良いものか、という気もしてくる。被災地に送る物資輸送が最優先されるので、道路は大混雑する。高速道路は通行止め(東北自動車道)になっており、車両は一般道に迂回を余儀なくされる。たとえ輸送ルートが確保されたにしても、従来の何倍もの時間を要することになってしまう。

 ここ日高に暮らしていると、あまりにも何もかもが変わらないので、テレビの画像だけではピンと来ない部分もある。しかし、影響はやがて徐々に出てくることだろう。今のところ生活物資は一部を除いて潤沢に出回っており、コンビニでもスーパーでも物はたくさん売られているが、いずれ食料も燃料も回って来なくなるのではないか、という不安がある。

 道路網には被害がないものの、肝心の製造元が稼動を中止しているとすれば、いずれ様々な物資の供給量が減少するのだろうから。

 こうした不安が消費者心理に影響し、多くの人々が「非常用の備蓄物資」を買い漁るような結果を招いている。余波は必ずこの地域にも及ぶことになろう。

 こういう、一種の社会不安が蔓延している状況で、競馬をやって行けるのだろうか。再開して欲しい、一日も早く平常の姿に戻って欲しいと願わずにはいられないが、今度は新たな放射能汚染の恐怖も出てきているため、今後はまったく予断を許さない状況だ。

 今月末には九州から「2歳トレーニングセール」が始まり、来月には「JRAブリーズアップセール」も予定されている。購買者心理に影響なしとはとても考えられず、先行き不透明な状況にあるのは間違いなかろう。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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