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二冠馬と三冠馬

  • 2011年10月22日(土) 12時00分
 オルフェーヴルが三冠制覇に王手をかけ、ファンの注目を一身に集めている。

 皐月賞、ダービー、そして菊花賞と舞台も距離も異なる(今年は皐月賞も東京で行われたが)3つのレースをすべて勝つことができるのは、卓越したスピード、スタミナ、タフさ、成長力など、競走馬として高い総合力を持った馬だけである。

 ここでふと思う。では、二冠馬と三冠馬とでは何が決定的に違うのか。二冠馬は何が足りなくて三冠馬になれず、三冠馬は何が優れていたから二冠獲得に終わることなく栄冠を手にできたのだろうか。

 まず、過去20年の春の二冠馬と、三冠目の菊花賞の着順を列挙したい。

 91年トウカイテイオー 不出走
 92年ミホノブルボン 2着
 94年ナリタブライアン 1着
 97年サニーブライアン 不出走(引退)
 03年ネオユニヴァース 3着
 05年ディープインパクト 1着
 06年メイショウサムソン 4着

 ふむふむ、という感じである。個人的な印象では、トウカイテイオーの強さは「超三冠馬級」だったのだが、故障のため菊花賞に参戦できなかったのだから仕方がない。「無事これ名馬」ではなかった、ということか。

 いや、それでも私は、あんなに軽く走って皐月賞を勝った馬を初めて見た(テイオーと他馬の名誉のために、正確には「軽く走ったように見える競馬で勝った」と言うべきか)。つなぎのやわらかさを誇示するように弾むような足取りでパドックを歩き、そのまま返し馬に入り、さらにその延長のような感じの軽やかな走りで圧勝するさまを目の当たりにしたときは、驚きのあまり声が出なかった。

 テイオーのケタ外れの強さは、1年ぶりの実戦となった有馬記念で、ビワハヤヒデやレガシーワールド、ベガ、ウイニングチケットといった強豪をあっさり退けたシーンからもよくわかる。

 であるから余計に、私にとって「三冠」は、「あんなことができるテイオーでさえ獲れなかった、とてつもなく難しいタイトル」なのである。

 ミホノブルボンには一本調子なところがあったし、サニーブライアンも同様で、もし菊花賞に出ていたとしても三冠獲得は難しかったような気がする。

 ネオユニヴァースも強い馬だったが、あとでふり返ると宝塚記念が余計だったのと、やはり距離適性では、勝ったザッツザプレンティやリンカーンが上だった、ということか。

 メイショウサムソンは、長距離戦でも展開次第では瞬発力が求められるようになった時代にあって、ディープインパクトにあったような軽さに欠けていたように思う。

 ここで過去20年の春秋の二冠馬に目を向けると――。

 98年セイウンスカイ 皐・菊
 00年エアシャカール 皐・菊

 これら2頭だけであり、両馬の走りを思い出してみると、ともに勝つときは強いが、脆さのあるタイプだった。

 面白いことに、さらに歴史をさかのぼり、87年サクラスターオー、85年ミホシンザン……など、皐月賞と菊花賞を勝った二冠馬や春の二冠馬はけっこういるが、ダービーと菊花賞を勝った二冠馬は、73年のタケホープと43年のクリフジだけだ。このうちクリフジは牝馬であり、オークスを加えた「変則三冠馬」として認識されているので、二冠馬と言うべきではないのかもしれない。

 タケホープは、弥生賞で大敗するなどして皐月賞に出走できず、残りの二冠制覇を目指すことになった。なお、この年の皐月賞を勝ったのは、あのハイセイコーだ。これもあり得ないタラレバだが、タケホープが出ていても勝っていたかどうか、という感じがする。

 ともあれ、ダービーと菊花賞の二冠馬が日本の競馬史上実質的に1頭しかいないということは、これらのふたレースを勝ってしまうような馬は、皐月賞も勝って三冠馬になってしまう、ということだろう。

 日本の三冠馬は、セントライト、シンザン、ミスターシービー、シンボリルドルフ、ナリタブライアン、ディープインパクトと、これまで6頭出ている。

 オルフェーヴルは、ここに書いたような二冠馬タイプか、それとも、これら6頭につづく三冠馬タイプか。

 私は後者だと思っている。それが正解かどうか、まもなく明らかになる。

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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