スマートフォン版へ

有馬記念を制す二段スパート

  • 2011年12月24日(土) 12時00分
 今年の有馬記念には去年の有馬の1〜7着馬のうち6頭が出てくる。出走馬13頭のほぼ半数である。

 予想原稿などを書くとき、フルゲート18頭だとして同じ前走に出た馬が4、5頭いれば「××の再戦」と表現することもある。が、今年の有馬記念を「去年の再戦」とする論調は、私の知る限りでは見られない。それはやはり、去年出走していなかった強烈な馬、オルフェーヴルがいるからだろう。

 構図をわかりやすくするため、去年の出走組と非出走組を列挙してみる。

 去年の出走組(着順)
 ヴィクトワールピサ
 ブエナビスタ
 トゥザグローリー
 ペルーサ(出走取消)
 トーセンジョーダン
 ルーラーシップ
 エイシンフラッシュ

 去年の非出走組(レーティング順/同じ場合は五十音順))
 アーネストリー
 ヒルノダムール
 オルフェーヴル
 ジャガーメイル
 ローズキングダム
 レッドデイヴィス
 キングトップガン

 サッカーのPK戦ではないが、出走組と非出走組から一頭ずつ選んでマッチレースをさせたら最終的にどっちが勝つか……なんて考えても面白い。

 それはさておき、去年の1〜7着の結果は、激闘をつづけてきたスターホースが、一年の総決算として中山芝2500mという特殊な舞台で出した「答え」である。きわめて意味のある序列であることは確かだ。

 しかし、去年の上位7頭は、そのとき3、4歳だった馬ばかりだ。よほどのことがない限り、ほとんどの馬が去年よりさらに強くなっているだろうし、伸びしろが大きいということは力関係が逆転する余地もまた大きいということだから、序列はかなりの確率で変化している。前記の序列が、ブエナ、ヴィクト、トーセンという順に変わっているかもしれないし、ブエナ、トーセン、ヴィクトとなっているかもしれない。

 そこに去年の非出走組の7頭を重ねてみるとどうなるか。オルフェがポツンと抜けた一番上に行っているかもしれないし、ブエナやトーセンには及ばないかもしれない。

 これだけの超豪華メンバーが揃うと、5着ぐらいまで当てる馬券があっても面白そうだが、現実に売られている馬券は3着までを当てるものなので、それに合わせて考えてみると――。

 去年の1〜7着馬から一頭も3着以内に来ないという結末は、ちょっと考えにくい。どれかは必ず3着以内に来るような気がする。

 では、去年の非出走馬はどうか。これら7頭から一頭も3着以内に来ないという結末もまた考えづらい。

 同じ馬が6頭も出ていれば、去年と似たような展開になってもよさそうだが、去年逃げたトーセンは今年は控えそうだし、今年初めて出るアーネストリーがハナを切るか、ハナに立たないにしても確実に先行する。ヴィクトはドバイワールドCのときからゲートが遅くなり、角居勝彦調教師が「修正しなくてはならない」と話していた。しっかり手を打ってくるだろうから、今年は序盤から前々で競馬をする可能性が高い。

 ということは、だ。1000m通過62秒0のスローになり、向正面でヴィクトが一気に進出できた去年より、今年は淀みのない流れになるだろう。

 そうなると直線では前が止まり、後ろから差してくる馬に有利になる……というのが「普通のレース」におけるパターンだ。有馬記念はしかし、出走メンバー、施行時期、かかるタイトル、舞台設定など、すべての意味において「普通のレース」ではない。「競馬は世をうつす鏡」と言われており、特に有馬記念は「鏡」になりやすい。東日本大震災があった今年は、例年以上に「特別なレース」になると、私は思っている。

 今年の出走馬には、淀みない流れのなか先行しても、最後まで速い脚を使える馬が何頭もいる。そうした馬の陣営は、「速い流れをつくって後ろの馬になし崩しに脚を使わせたい」と考えている。ここまでハイレベルなメンバーが揃うと、「ハイペース=差し馬有利」という「普通のレース」における常識が通用しなくなるのだ。

 ハイペースになって直線で馬群がバラけると、差してくる馬の「通り道」が大外以外にもできるわけだし、相対的には、スパートをかける時点まで少しでも楽をしていた馬(つまり後ろにいた馬)のほうが速い脚を使えることは確かだが、その代わり、ゴーサインを出した時点での前との距離は大きくなる。

 中山は特に、あの短い直線だけで逆転することは難しいので、追い込み馬は3、4コーナーを回りながらロングスパートをかけなければならない。コーナーを回るときは右手前、直線に入ってからは左手前で走るわけだから、左右両手前での「二段スパート」が求められるのだ。

 あれだけ強いブエナが有馬記念で2年連続2着に終わったのは、その「二段スパート」が苦手だからだと思う(東京は、長い直線を右手前で走る「一段スパート」が鋭ければ好勝負できる)。

 オルフェはどうか。菊花賞の勝負どころでの脚を見ると、軽めの「二段スパート」をかけて圧勝したことがわかる。

 と、あれこれ書きながら、有馬記念の予想をしてみた。

 ここに記した馬たちを組み合わせつつ、「武豊騎手24年連続GI制覇祈念馬券」としてレッドデイヴィスの「がんばれ馬券」を買って、スタートを待ちたい。

【お知らせ】
『熱視点』の次回更新は1/7(土)になります。ご了承の程よろしくお願い致します。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング