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フクイズミ引退の陰に

  • 2012年02月10日(金) 18時00分
 ばんえい競馬で、ファンから絶大な人気の牝馬フクイズミと、NARグランプリ2010でばんえい最優秀馬となったニシキダイジン、2頭のトップホースの今シーズン限りでの引退が発表された。

 フクイズミは、芦毛の馬体に加え、ゴール前で一気に追い込んで差し切るレースぶりが、若い頃から注目の的だった。衝撃的なレースだったのが、重賞初挑戦となった3歳1月の黒ユリ賞。第2障害を越えたのがほとんど絶望的なタイミングで、レース映像のカメラにはまったく収まらないようなところから追い込み、一気に前を交わし去っての勝利。11歳になった今でもその末脚は健在だ。

 ニシキダイジンは、9歳になった一昨年のばんえい記念を6番人気で制し、以降は高重量戦で活躍。ここ2年ほどは、NARグランプリ2011のばんえい最優秀馬となったカネサブラックと頂点を争うライバルとして注目を集めてきた。この2頭が抜けてしまうと、古馬の重賞戦線がかなり寂しくなる感じで、ほかにも引退がささやかれるトップホースが何頭かいる。

 近年、重種馬の生産頭数がかなり減ってきていて、ばん馬の層がだいぶ薄くなってきている。それは危機的状況とも言えるほど。

 ばんえい競馬では、デビュー前に能力検査が行われ、一定以上のタイムで走り抜かなければ競走馬としてデビューすることはできない。かつては一世代で1000頭前後が能力検査を受け、受かるのは200頭ほどという厳しい世界だった。ところが最近は、ほとんどの馬を合格させなければ馬が不足してしまうため、必然的にばん馬の能力低下は避けられないようになってきている。

 ニシキダイジンとカネサブラックの牙城を突き破る馬が若い世代からなかなか出てこなかったり、また1月29日に行われた牝馬重賞・ヒロインズカップで、エンジュオウカン、フクイズミという11歳馬同士での決着となったのは、そうした理由からでもあろう。

 かつてのばんえい競馬では、牡馬が10歳シーズン限り、牝馬が8歳シーズン限り、という定年があったが、近年それが撤廃されたのは、やはり頭数が不足してしまうからだろう。

 あるオーナーブリーダーの話では、かつてならデビューできなかったようなレベルの馬が競走馬になっているため、障害の高さや砂の状態などを下のレベルの馬に合わせて調整せざるをえないため、レースそのものが変わってきている。力勝負ではなくスピード決着にシフトしてきている。勝てる馬を生産するにはそうした傾向に合わせていかなければならないのだが、配合を考え、生産して、そして競走馬となるまでには長い時間がかかる。状況の変化に、生産のサイクルが追いついていけない。

 ばんえい競馬は、開催業務を委託する民間企業が来年度から変わるのではないかということが地元新聞を賑わしているが、それ以上に馬資源の減少は深刻な問題。何か打つ手はないだろうか。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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