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小崎師と武騎手は悔しさを露に…/ドバイ現地レポート(4/1)

  • 2012年04月01日(日) 18時00分
 昨年の歓喜の再現が期待された、ドバイの3月最後の夜。今年は角度によって、様々な見どころがあった。昨年と同じく3頭が出走のワールドカップは、トランセンドが前年のレースで2着としたことで俄然レース前の期待は大きかった。地方競馬から送り出したという視点で見れば、厳密には異なるものの地方のダートグレード競走を主戦場とするスマートファルコン、東京ダービー馬のマカニビスティーがそれらに当てはまる。大きく視点をアジアの挑戦と拡げれば、香港からもいずれも有力な6頭が出走し、シンガポールからはロケットマンがゴールデンシャヒーン連覇を狙った。しかし、終わってみれば、まるでエイプリルフールが1日前倒しにされたかのような、想定外の出来事の連続に、特に日本から参戦した馬や騎手、スタッフも、そして応援を送ったファンも翻弄されたような夜となったと言える。

ゴールドC出走のマカニビスティー

ゴールドC出走のマカニビスティー(撮影:高橋 正和)

 日本勢の先鋒は第3レースに行われたドバイゴールドカップに出走のマカニビスティー。今年から賞金が増額され、ワールドカップミーティングに組み込まれた長距離レースで、昨年のカドラン賞の勝ち馬カスバーブリスや、一昨年のカナディアン国際の勝ち馬ジョシュアツリー、欧州長距離路線の常連フォックスハント、オピニオンポールなど、G3とはながらも豪華なメンバーが出走した。名だたる欧州のステイヤーたちに東京ダービー馬と園田出身の小牧太騎手のコンビが挑む構図は、さすがに楽なレースは見込みづらい分、逆にどのようなレースを見せてくれるのかと非常に興味深いものであった。

 スタートして「相手は出てこないと思った」と見た小牧騎手は積極的にマカニビスティーを押して、なんと日本でのレースとは逆に逃げの手に出た。ジョッキーの目論見どおり競り掛ける馬もいなく、すったりとしたペースで後続を引き連れて1周目のスタンド前を通過していく。アクシデントが起きたのはそのときだった。中団に位置していたフォックスハントが故障を発症し、その場に倒れ込んでしまった。レースは淡々と流れるものの、倒れたフォックスハントはその場から動くことができず、軽快に逃げるマカニビスティーが向こう正面の中ごろを通過する時点で、レースの途中中止が伝えられた。ドバイのレースでは車がコースの内側を併走するが、この車からレース中の騎手に中止の合図が送られ、小牧騎手も「あれ?コースを間違えた?」と思って後続を振り返ると各馬が止まっていたことで中止を知ったそう。日本ではなかなか考えられないシチュエーションだが、想定外の事態はこれで終わらず。ひとつレースを置いて第5レースのアルクオズスプリントの発走前に、ドバイワールドカップの45分後に再レースとして行われることが発表されたのだ。異例中の異例の事態に、情報が錯綜しつつも、各厩舎の意向を聞いた上で、故障したフォックスハントを除く全馬が出走に。カスバーブリスの騎手ジェラール・モッセだけが翌日の騎乗の都合でクリストフ・スミヨンに乗り替わって、現地時間の22時25分に再スタートが切られることとなった。

勝ったオピニオンポール

勝ったオピニオンポール(撮影:高橋 正和)

 筆者は装鞍所から各馬がパドックに出て行くところに居合わせたが、どの馬もやはり足どりに力強さがなかったり、明らかに腹が巻き上がっていたりというこれからレースを迎えるにふさわしいとはいえない状態。実際にレースでも向こう正面でブロンズキャノンが故障、グランドベントも途中でリタイヤという痛ましい結果に後味の悪いレースとなってしまった。

「1回逃げたので馬が自分で行った」(小牧騎手)というように今回も先手を取ったマカニビスティーは、最初のレース(という書き方もおかしいが)よりも明らかにスローペースだったが、3コーナーで「気持ちが切れた」(矢作調教師)ことでズルズルと後退。最後は無理をせずに流すようにゴールした。「返し馬からちょっとカタカタとしていたので、できるだけ負担にならないよう乗りました。こんなレースですからまずは無事でよかった」と小牧騎手の談。勝ったのはオピニオンポール。ワールドカップを勝ったマフムド・アル・ザルーニ調教師が最後も飾ることとなった。

第4レース出走のゲンテン

第4レース出走のゲンテン(撮影:高橋 正和)

エーシンヴァーゴウ得意舞台も

エーシンヴァーゴウ得意舞台も(撮影:高橋 正和)

 話は遡って第4レースは、同じく矢作厩舎のゲンテンが出走。スタートこそ五分だったものの、道中は口を割って、3コーナー付近で失速。大きく離された最下位に終わった。矢作調教師も「力の差」と相手関係を認めつつも、やはり悔しさは隠せない様子で、ゴールドカップの結果と併せて「これからどう挑戦するか、改めてみんなでいろいろ考えなくてはいけない」と述べていた。

 続くアルクオズスプリントには、昨年のサマースプリントチャンピオンのエーシンヴァーゴウが出走。得意とする直線1000メートルの舞台で、どのようなパフォーマンスを発揮できるか期待されたが、五分のスタートで先行しながら、レース中盤には手応えも怪しくなり、前も塞がってしまったこともあって最後は12着と大きく敗れた。「体調は上がってはきていたけど、ちょっと輸送で減った分の影響もあったのかも」と小崎調教師。勝ち時計の57秒98は、この馬の好調時なら苦のないタイム。ただ、勝ったオルテンシアの追い込みがハマった展開と考えれば、先行勢にきつい馬場とペースだったとも考えられる。

 ドバイゴールデンシャヒーンには日本馬の出走はなかったが、メンバーを見渡せばディフェンディングチャンピオンのロケットマン、昨年の香港スプリントの勝ち馬ラッキーナイン、ダーレーオーストラリアの快速3歳馬セポイ、今年のメイダン開催で一気に力をつけたバーレーン籍のクリプトンファクター、アメリカで短距離G1を2勝のザファクターなど、ブラックキャビア、カレンチャンを除いたスプリント最強決定戦とも言える様相。

 好スタートを切ったのは最内枠のロケットマンで、いきなり後続に1馬身ほどのアドバンテージを奪った。スタートで脚を使っていた昨秋とは明らかに別馬の行きっぷりで、外からジャイアントライアンに並ばれながらも、余裕残しの4コーナーでの手応えからもこれは連覇濃厚か?と直線半ばまで思わせたが、さらに手応え十分のクリプトンファクターが馬場の真ん中から追い出すと、残り200メートル付近でロケットマンを悠々と交わし去り、前哨戦のバハブアルシマールからの連勝で、バーレーン勢に初タイトルをもたらした。3着には大外から追い込んだラッキーナインが入り、バーレーン→シンガポール→香港とアジア勢が上位3頭を独占という結果に。スプリントではなかなか海外でのタイトルに遠い日本勢にとってもいい刺激になったのではないだろうか。

 また、ラッキーナインはこの後のプランとして、様々な選択肢を考えつつも安田記念参戦を春の目標としているとのこと。今回の道中はプレブル騎手が追っつけ通しでようやっとエンジンが掛かったといった走りからも、東京のマイルでは怖い存在となりそうだ。

ドバイDF出走のダークシャドウ

ドバイDF出走のダークシャドウ(撮影:高橋 正和)

勝ったシティスケープ

勝ったシティスケープ(撮影:高橋 正和)

 続くドバイデューティフリーには、ダークシャドウが出走。先だってのレポートでも紹介した他にも、海外メディアや関係者からは、日本馬の中ではワールドカップの3頭よりも下馬評が高く、自ずと期待も高まっていた。

 ただ、好事魔多し。ワールドカップデー名物の花火を伴ったインターミッションショーがこのレースの直前に行われ、急かされるようにパドックを周回させられたことで、イレ込む馬が多く現れた。ダークシャドウも影響を受けた1頭で、ゲートこそゲートボーイをつけたことで落ち着いたものの、いいポジションを得た道中では、テンションの上がった香港のアンビシャスドラゴンに終始寄られて煽られ気味になったのが影響したのか、この馬本来の伸びを見せることなく9着に敗れてしまった。勝ったのはシティスケープ。3コーナー過ぎで早めに先頭に立つと、直線では後続を突き放す圧勝ぶりだった。昨年の香港マイルでも強い競馬を見せて2着としており、今回のような環境の変化にむしろ強いタイプとも言える。

 準メインに置かれたドバイシーマクラシックは、かつて日本馬が2勝を挙げているが、今年の出走はなし。しかし、10頭立てと今回の中でも最も少ない頭数ながら、昨シーズンのBCクラシックの勝ち馬セントニコラスアビー、欧州の2000m路線の強豪シリュースデセーグル、昨年のアイリッシュダービー馬トレジャービーチなど強豪が顔を揃え、それに相応しい見ごたえのあるレースとなった。

 ほぼ一団の馬群の中から、直線に向いて真っ先に抜け出したシリュースデセーグルが後続を引き離す。もがく後続の中から、馬群を割るように唯一、セントニコラスアビーがぐいぐいと差を詰め、欧州実力馬2頭の一騎打ちになるも、軍配はシリュースデセーグルに。実はセントニコラスアビーの調教は日本人ライダーの柘植要さんが担当している。レース後には「もうちょっとペースが上がって欲しかったですね」とこぼしながら、最後まで健闘した愛馬を労っていた。

スマートファルコンは後方から

スマートファルコンは後方から(撮影:高橋 正和)

 日本勢はここまで4頭が出走し、3頭が大敗し、1頭が競走やり直し(後にしんがり負け)と厳しい状態。これに輪をかけて落胆ムードを決定づけたのは、ワールドカップでの大惨敗だろう。誰もがスマートファルコンとトランセンドの2頭がレースを引っ張ると考えており、スマートファルコンがあのような形で後方からのレースを強いられるとは思っていなかったはず。また、ハナを切ることができたトランセンドにしても、ほぼ抵抗すら許されない形で馬群に飲まれるとは、昨年のレースぶりからは想像もしていなかったのではなかろうか。

 期待が高かっただけに、その落差からなんともいえない消化不良感は大きかった。とりわけ当事者である騎手や厩舎関係者の落胆は大きく、特に小崎調教師と武豊騎手はやるだけのことができなかったという納得のいかない悔しさを露にした表情は実に印象的であった。

勝った昨年の3着馬モンテロッソ

勝った昨年の3着馬モンテロッソ(撮影:高橋 正和)

 一方で勝ったのは早めに抜け出したカッポーニを直線半ばで捉えた昨年のこのレースの3着馬モンテロッソ。ゴドルフィンの第2調教師であるマフムド・アル・ザルーニ調教師は初のドバイワールドカップ優勝をワンツーフィニッシュで飾ることとなった。またゴドルフィン勢にとっては、06年のエレクトロキューショニスト以来の優勝で、シェイク・モハメド殿下がミケル・バルザローナ騎手を熱く抱擁するシーンは、この日のクライマックスとして場内を大いに盛り上げるものとなった。

 ドバイ挑戦の歴史を振り返ると、前哨戦の内容がよかったり、前年にいい結果を残して期待が高いときほど、本番での結果に結びつかないことが多い。今回もまさにそれに合致するものであると同時に、アウェーで本来のパフォーマンスを発揮することがいかに容易でないかということが、改めて実感できるものであった。一方で、ゴールデンシャヒーンのように、ややもすれば日本よりも格下に見られがちな国の調教馬の活躍もあったことは、近隣国の競馬レベルを改めて評価するきっかけとなる出来事であると同時に、日本勢もどこか参考にできるものがあると思わせられるものであったと言えるだろう。(取材:土屋真光)

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