革命的な種牡馬の継承役。それは務めるのは、不思議と意外な馬たちである。代表産駒の上位に名を連ねる、まばゆいばかりの勲章を持つ馬は少ない。
たとえば、アメリカの歴史的名馬ネイティヴダンサー。その継承役を務め、父系を北米の主流血脈へと押し上げたのは、2歳の早くに骨折で引退に追い込まれ、三冠レースに実績のないレイズアネイティヴだった。
このレイズアネイティヴ系を、北米のローカル血統から世界の主流血脈へと押し上げたミスタープロスペクターに至っては、二流の競走馬だ。
さらに20世紀後半、世界的に血統革命を巻き起こしたノーザンダンサー。その血を今日に伝える重賞な役割を果たした1頭、ダンジグも骨折で3戦のみで引退し、何の勲章も持たない馬だった。
欧州で長く君臨し、今も後継種牡馬の成功でノーザンダンサー系の主流をなすサドラーズウェルズ。この馬も、愛2000ギニーを勝ってはいるが、数いるノーザンダンサー産駒の一流馬に比べれば、競走成績は一枚も二枚も落ちるものだった。
サラブレッドが始まって以来、300年以上にわたり繰り返されている、「走る能力」と「伝える能力」の不一致である。
そして日本でも、良血のディープインパクト産駒を蹴散らして、ステイゴールド産駒が2年連続で皐月賞を制した。
得意のぬかるんだ馬場、内田博幸騎手の好騎乗。それがうまくハマったにしても、最後方を進み、3コーナーあたりからグイグイ押して、ゴールまでバテずに伸びた脚はただものではない。
ディープインパクトの快進撃を本番で阻止するのは、アグネスタキオンあたりかと思っていたが、今年もステイゴールド×母の父メジロマックイーンの配合だった。
ステイゴールドを日高に放出し、ディープインパクトに力を入れてきた社台グループにとっては、痛し痒しだろう。大資本の名馬至上主義に対する痛烈な皮肉、しっぺ返しとも言える。
サラブレッドの血統は、このようにいつもいつも気まぐれで、時に意地悪である。しかし、だからこそ競馬は面白いのだ。