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サラブレッドの血統は気まぐれで、時に意地悪

  • 2012年04月20日(金) 12時00分
 革命的な種牡馬の継承役。それは務めるのは、不思議と意外な馬たちである。代表産駒の上位に名を連ねる、まばゆいばかりの勲章を持つ馬は少ない。

 たとえば、アメリカの歴史的名馬ネイティヴダンサー。その継承役を務め、父系を北米の主流血脈へと押し上げたのは、2歳の早くに骨折で引退に追い込まれ、三冠レースに実績のないレイズアネイティヴだった。

 このレイズアネイティヴ系を、北米のローカル血統から世界の主流血脈へと押し上げたミスタープロスペクターに至っては、二流の競走馬だ。

 さらに20世紀後半、世界的に血統革命を巻き起こしたノーザンダンサー。その血を今日に伝える重賞な役割を果たした1頭、ダンジグも骨折で3戦のみで引退し、何の勲章も持たない馬だった。

 欧州で長く君臨し、今も後継種牡馬の成功でノーザンダンサー系の主流をなすサドラーズウェルズ。この馬も、愛2000ギニーを勝ってはいるが、数いるノーザンダンサー産駒の一流馬に比べれば、競走成績は一枚も二枚も落ちるものだった。

 サラブレッドが始まって以来、300年以上にわたり繰り返されている、「走る能力」と「伝える能力」の不一致である。

 そして日本でも、良血のディープインパクト産駒を蹴散らして、ステイゴールド産駒が2年連続で皐月賞を制した。

 得意のぬかるんだ馬場、内田博幸騎手の好騎乗。それがうまくハマったにしても、最後方を進み、3コーナーあたりからグイグイ押して、ゴールまでバテずに伸びた脚はただものではない。

 ディープインパクトの快進撃を本番で阻止するのは、アグネスタキオンあたりかと思っていたが、今年もステイゴールド×母の父メジロマックイーンの配合だった。

 ステイゴールドを日高に放出し、ディープインパクトに力を入れてきた社台グループにとっては、痛し痒しだろう。大資本の名馬至上主義に対する痛烈な皮肉、しっぺ返しとも言える。

 サラブレッドの血統は、このようにいつもいつも気まぐれで、時に意地悪である。しかし、だからこそ競馬は面白いのだ。

血統評論家。月刊誌、週刊誌の記者を経てフリーに。著書「競馬の血統学〜サラブレッドの進化と限界」で1998年JRA馬事文化賞を受賞。「最強の血統学」、「競馬の血統学2〜母のちから」、「サラブレッド血統事典」など著書多数。

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