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NHKマイルC

  • 2012年05月07日(月) 18時00分
 カレンブラックヒル(父ダイワメジャー)が鮮やかな逃げ切り勝ちを決め、通算4戦4勝となった。父ダイワメジャー(マイルCS2勝、安田記念)は初年度の産駒からGI勝ち馬を送り、管理する平田調教師も、秋山真一郎騎手も初のGI制覇となった。

 今年は先行スピードが持ち味の快速タイプがいなかった。さらに、今季の東京はそれほど高速の芝コンディションではなく、そこに直前の雷雨も重なって「1分34秒5」の勝ちタイムはいかにも平凡にみえる。また、一転二転の激戦が多いNHKマイルCにしては単調にも映るレース展開だったが、カレンブラックヒルのレースの中身は決して悪くない。人気馬の逃げ切りとしては秀逸である。

 前3年の勝ち時計は、09年から順に、1分32秒4、1分31秒4、1分32秒2…。猛烈なタイムの連続してきたGIだから、たしかに今年の1分34秒5は平凡に映るが、前3年の東京芝は(いまの京都ほどではないにしても)、少し高速の芝コンディションすぎた。しかし、この日の最終12R「1600万特別」1600mの勝ちタイムも、接戦ながら46秒2−48秒7=1分34秒9(前半1000m通過は58秒5)にとどまっている。軽い芝コンディションではなかったのである。

 カレンブラックヒルの、単騎逃げ切り。1000m通過「59秒9」の数字だけをピックアップすると超スローにも映るが、レースバランスは絶妙の「47秒3-47秒2」。マークする位置にいた3番人気のアルフレード(C.ウィリアムズ騎手)以下を、ゴールでは3馬身半も突き離しているのだから、ただの恵まれての逃げ切りではない。3コーナーすぎからの1ハロン「12秒6」で巧みに息を入れた。東京のマイル戦で、ライバルの格好の目標になりながら、決定的な差をつけたのは見事だった。

 格下馬を追走して抜け出す追い切りと、あまり強気でもないふだんの騎乗スタイルから考えるに、大事に2〜3番手追走も考えられた。でも、相手の出方を見つつとはいいながら、今回の秋山騎手は最初から自分でレースを作る覚悟があったのだろう。スタート直後から相手の出方など気にしていないようにみえた。

 このGI勝ちの自信は大きい。激しい追い比べでこそ真価…という騎乗スタイルではないから、先行タイプに乗ってペース感覚を大切にする騎手になればいい。いま、流れに関係なく最初から下げてしまう騎手が非常に多い。これを契機に自在の先行策を持ち味とする、バランス感覚に優れた騎手になって欲しい。

 アルフレード(父シンボリクリスエス)は、レース直前の雨が気になった。外枠でなだめながらの先行策もロスを免れない立場だったが、さすがはC.ウィリアムズ騎手。前半はひかえ気味に大事に流れに乗せ、勝負どころから早めに進出。最後は後続の追撃をぎりぎりしのぎ切ってみせた。重馬場のスプリングSを凡走後、すぐにこのマイル戦に目標を切り替えた陣営の読みも正解だろう。今回はスピード能力を前面に出せた。

 勝ったカレンブラックヒル、そしてアルフレード。ともに無理使いはしていない。アルフレードは朝日杯FSの勝ち馬で、祖母はサクラバクシンオーの全妹。だからといってマイル戦こそベストとも限らない。カレンブラックヒルのしなやかやスピード能力も、3代母は欧州タイプで仏オークスなどの勝ち馬、マイル戦だけにとどまるとはいえないが、まあふつう、ともに日本ダービーの2400mというタイプではないようには思える。次走はどのレースになるのだろう。

 人気上位の差し馬ジャスタウェイ、レオアクティブは、これはレースの流れに恵まれなかったのは確かだが、それは先行馬つぶれのレースではなかったという意味。レース全体のバランスは「47秒3-47秒2」であり、勝った馬は独走している。上がり33秒台で猛追して届かなかったわけでもない。東京マイルのGIでは実力負けだろう。

 マウントシャスタ(父ディープインパクト)の評価は難しい。もしスムーズに前が開いていれば、斜行で人馬に「しまった」の躊躇がなかったなら、2着までは突っ込めた余力は十分にあったのではないかとも思えるが、まだキャリア3戦、もまれたレース経験なしの弱みは大きかった。セパレートコースではないから外から寄られたうんぬんは関係ない。先行馬つぶれの激しい流れで、最後に馬群がばらける展開なら良かったろうが、それを言っては「流れてくれれば…」と同じで、自ら実力不足を認めることになってしまう。素質の高さは衆目一致。だが、毎日杯でほぼ全力を出し切ったあとのディープインパクト産駒で(間を空けないと続けて快走しない馬が多い)、東京は初コース、初距離。落ち着いてはいたが、今回はちょっと状況がきびしすぎたろう。獲得賞金1650万円、登録はするだろうが、日本ダービーは賞金不足と思える。

 マウントシャスタの斜行によるシゲルスダチの落馬事故で、マイネルロブスト(14着)、メジャーアスリート(15着)、モンストール(16着)は影響を受けた。制裁には関係しなかった不利だが、最後は失速ではなく、仕方なくレースをやめていた。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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