スマートフォン版へ

時代の転換点

  • 2012年06月08日(金) 18時00分
 地方競馬はダービーウイーク真っ最中で、これを書いている時点で、あとは東海ダービーを残すのみ。ダービーウイークには含まれていないものの、10日には黒潮ダービー高知優駿も行われる。

 今年のダービーウイークも、ここまでいずれのレースも見どころ満載だったが、強烈だったのはやっぱり東京ダービーだ。

 一昨年厩舎を開業したばかりの森下淳平厩舎のワンツーというのみならず、馬主、生産牧場、種牡馬まで同じ。口取り写真の撮影は、2頭を並べて行われた。それだけでメシが3杯食える。いや、いろんな切り口から原稿が3本くらいは書ける。

 そうしたワンツー決着のほかに、思い浮かんだキーワードが、世代交代。

 森下調教師は一昨年の10月、30歳で調教師となり、今でも大井所属の調教師では最年少の32歳。高校を数か月で中退してこの世界に入り、当時すでに身長が高かったため騎手になることは最初からあきらめていたが、しかしその時点から調教師を目指していたという。

 昨年暮れに北海道から転厩してきたエンジェルツイートの東京2歳優駿牝馬が重賞初挑戦での勝利。今年は、そのエンジェルツイートこそ浦和・桜花賞3着、東京プリンセス賞2着だったが、東京ダービーでその悔しい思いを晴らすというのだから恐れ入る。

 東京2歳優駿牝馬ではエンジェルツイートが1番人気のエミーズパラダイスを2着にしりぞけ、そして東京ダービーでも再び1番人気のエミーズパラダイスを負かしてみせた。しかも今度は所属2頭がまとめてだ。エミーズパラダイス陣営、というか、地方競馬では絶対的存在の川島正行厩舎にとっては、天敵現る、といったところだろうか。

 若い森下調教師が、川島正行調教師を2度に渡って負かしたということでは、大相撲で貴花田(のちの貴乃花)が千代の富士を負かした瞬間を思い出した。まさにこれが時代のひとつの転換点になるかもしれない。

 そして、鞍上も23歳と若い船橋の本橋孝太騎手。

 本橋騎手といえば、デビュー当初はほとんど芽が出ず、2年目から3年目にかけて修行に出た高知で鍛えられ、船橋に戻って急成長したのは広く知られるところ。今や南関東でデビューした若手の多くが、期間限定騎乗の制度を利用して、高知をはじめとしてさまざまな競馬場に修行に出るようになったが、それも本橋騎手の成功例があってのことだろう。

 一方で、東京ダービーでは毎年注目されることだが、そのタイトルになかなか手の届かない的場文男騎手は、今年で21回目の挑戦。騎乗したダイヤモンドダンスは、未勝利ながら単勝8.7倍で4番人気。複勝2.7-4.3倍というオッズと比較しても、単勝の応援馬券が過剰に売れていた。それでいて単勝人気と同じ4着は健闘といっていいだろう。当の的場騎手にしてみれば、勝たなければ健闘も何もないという思いではあろうが。

 そうしたところで、6番人気のプレティオラスを勝利に導いた本橋騎手は、東京ダービーはこれがまだ3度目の騎乗で、いかにもあっさりという感じで、そのタイトルをさらっていった。

 時代はこうして無常に、そしてときに非情に、流れていくのだなあ。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング