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ベテランの貢献と殿堂

  • 2012年08月10日(金) 18時00分
 内田利雄騎手が、この8月から10月1日までの予定で岩手で騎乗している。

 内田騎手はすでに浦和所属となることが決まっていて、今回の岩手での期間限定騎乗は、最初に期間限定としての騎乗を受け入れてくれ、さらにはほぼ毎年のように騎乗させてもらったお礼も込めてのことという。

 思えば宇都宮競馬が廃止になったのは2005年3月のことで、内田騎手のさすらい騎手生活は足掛け8年にも及んだことには驚くほかない。たとえば20代後半で独身ならそうした生活も充実しているかもしれない。しかし内田騎手は50歳。お子さんが手のかからないくらいに大きくなっているとはいえ、家族を養いつつ、その家を離れてという生活は並大抵のことではなかっただろう。

 何度も書いてきたことだが、それまでのルールを変えて期間限定騎乗という道を開いた内田騎手の功績はとてつもなく大きい。あとに続く全国の若い騎手に与えた影響も計り知れない。

 ベテランということでは、先月引退した金沢の山中利夫騎手について、このコラムでは紹介しないままだった。地方競馬最高齢騎乗と最高齢勝利の記録を達成し、63歳での引退。春木、紀三井寺、金沢などでトップジョッキーとして活躍し、その波乱に満ちた騎手人生については、引退前にインタビュー記事としてウェブハロンに掲載した。

 山中騎手の引退によって、地方競馬の現役最年長ジョッキーは、川崎の森下博騎手で57歳。ほかに南関東では、船橋の石崎隆之騎手が56歳、大井の的場文男騎手が55歳、同じ大井の早田秀治騎手が52歳。いずれも大レースを数多く制した歴史に名を残す名ジョッキーたちであることは間違いない。

 しかしそうした功績を称える表彰が地方競馬には少ないように思う。規定が明文化されているわけではないが、NARグランプリでは、地方通算3000勝を達成した騎手と、そのほか顕著な功績を残した騎手、調教師、関係者などを特別賞として表彰している。しかしせいぜいそこまでだ。大リーグや日本のプロ野球、それからアメリカの競馬などにある「殿堂」のような永久名誉的な表彰はない。

 JRAには「競馬の殿堂」があるが、顕彰者として表彰されているのは、今のところ調教師が7名、騎手が3名と、これもちょっと少なすぎるように思う。JRAの競馬の殿堂も、その選考基準を見ると、今となってはちょっと時代が違ってきていて突っ込みどころ満載なのだが、それは本題からずれるので置いておく。

 記録として後世に残していくためにも、地方競馬にも「殿堂」的な表彰は必要なのではないだろうか。さらに理想を言うなら、JRAの「競馬の殿堂」が、JRAに限定されるのではなく、将来的には日本の競馬全体での「殿堂」としての顕彰制度になればと思う。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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