あと4日の開催で夏競馬が終わり秋競馬が開幕するというのに、東京は冗談みたいな暑さである。

　心頭滅却すれば火もまた涼し、というのは本当だろうか。昨日までいた札幌の生家の窓から真冬に見た眺めを思い出してみよう……さっきより舞い降りる雪の密度が増したと思ったら風も強くなった。やがて、空気全体が雪の壁となる、いわゆるホワイトアウトの状態になって数メートル先も見えなくなる。

　--おれがペンギンかシロクマだったら、こういう天気は大歓迎なんだけどなあ。

　そう考えながらボーっとしていると、不意にひと筋の光が天上から射し、雪も風も弱まり、見る見る晴天がひろがっていく。視界に映るのは抜けるような空の青と降り積もった雪の白だけの別世界になり、感嘆のため息がもれる……うーん、ダメだ、まだ暑い。

　来週、グリーンチャンネルの仕事で青森の八戸と三沢に行くことになった。今、天気予報サイトで調べてみたら、札幌ほどではないが、東京よりは涼しいようだ。最高気温は東京とそう変わらないが、最低気温が22度前後と心身に優しそうでいい。

　誰に会いに行くかを書くぐらいならネタばらしにならないと思うので書いてしまうが、最年少ダービージョッキー・前田長吉(1923〜1946)の末裔の前田貞直さん、前田喜代治さん、目澤はつさんらに話を聞きに行く。貞直さんは前田家の嫡男、喜代治さんは2006年初夏に行われた長吉の遺骨返還式のときから広報担当をした人、長吉の姪のはつさんは、長吉が出征するとき、神社にお参りしながら一緒に歩いて駅まで送った人である。

　以前本稿に記したように、昨年、長吉と同じ部隊の上官で、満州の戦場でもシベリアの抑留先でも行動をともにした中山武さんが亡くなった。そして今年6月、出征する長吉から形見として長靴をもらった、いとこの前田与次郎さんが逝去した。

　その一方で、長吉の幼なじみで、小さいころ馬を放した山でよく一緒になったという前田円次郎さん(名字は同じだが縁戚関係はない)のように、お元気な方もいる。

　そうした方々の話を聞いて、映像なり活字なりの作品として世に問い、そして残すという仕事ができる幸せを感じながら、ロケをしてきたいと思っている。

　これは、私がナビゲーターをつとめた「近代競馬150周年記念番組〜第1回日本ダービーを知っていますか？」が好評だったとのことで、この秋、近代競馬の黎明期にスポットを当てた30分番組を十数本のシリーズとして放送することになった、そのひとつのロケである。正式なタイトルや放送スケジュールはまたあらためてお知らせするが、この年齢になって著書のプロフィール写真以外で顔出しする機会が多くなったので、少々戸惑っていることもある。

　私は、考え事をするとき、自分の眉にさわり、指先でつまんで他の眉毛より太く感じる毛を引き抜く癖がある。形を整えるためにやるならともかく、太い毛はいろいろなところにあるため、変なところが薄くなって見た目がとてもおかしくなることも多々あるのだが、それも最近は自重するようになった。

　と書いて思ったのだが、見てくれを気にするあまり、考えるときの癖を無理にやめて、ただでさえない知恵が余計に出づらくなったら、こんなにアホらしいことはない。うん、抜きたくなったら抜こう。

　実は私は、眉だけでなく、顎から首にかけてのヒゲも、こうして文章を書いたり、人と話しながらさわり、上手くつまめたものを引き抜く癖がある。そうして抜いたばかりのヒゲにはまだ粘着力のある毛根がついており、それを近くにいる人の腕や手の甲に「植毛してあげるよ」と言ってくっつけると、とても嫌がられる。

　普通、こういうことは「マネしないでください」と言うのだろうが、例えば、交際している相手と別れたくなったら、試してみてはどうだろう。それで余計に好かれたのなら、もう離れられない運命だと諦めるしかない。

　何を書いているのか自分でもよくわからなくなってきた。

　青森ロケの前に、前回書いたアジア競馬会議(ARC)出席者による意見交換会がある。ARCで興味を持ったテーマや、JRAの施策に反映する方法などの事前アンケートに、「競馬のオリンピック種目化」を日本がイニシアチブをとって進めてはどうかと記し、提出しておいた。そちらも楽しみである。