2年ぶりに盛岡競馬場に戻って行われたマイルチャンピオンシップ南部杯は、雲ひとつない秋晴れに恵まれ、場内はたくさんのファンや家族連れで賑わった。
盛岡競馬場は市内から車で20分ほどもかかる山の上にあるのだが、3連休の最終日とはいえ、わざわざ車でないと行かれないような場所にもかかわらず、それほどの人が集まるということは、岩手競馬は地元の人達にほんとうに愛されているのだと思う。
大レースが行われる日に限るとはいえ、これほど人が集まる場所が、廃止される、されないという話になるのだから、なんとも厳しい時代だ。近年廃止されたいくつかの競馬場でも、「こんなに人が来るのになんで廃止になるんだろう」と思ったことも一度や二度ではない。とはいえ、重賞が行われない平日などは寂しいほどにお客さんがいないというのもまた事実。
それで思ったのだが、大井や川崎などのようにコンスタントにファンの入場が期待できる首都圏のナイター競馬は別として、地方競馬はたくさんのお客さんに来てもらってお祭り的に盛り上げる日と、競馬場にお客さんは来なくてもいいから徹底的にネットでの売上げに期待する日との二極化を考えてもいいのではないか。
南部杯当日の盛岡競馬場には、いくつものキッチンカーが来ていて、行列ができていた。フリーマーケットも行われていて、そうしたことを目当てに来場したと思われる家族連れも少なくないように思われた。また競馬ファンに対しては、鈴木淑子さんや井崎脩五郎さんなどの豪華ゲストがトークショーやサイン会などのイベントで盛り上げていた。
すべての開催日に人を呼ぼうとするのではなく、競馬と競馬場を盛り上げる“特異日”をつくって、競馬場は楽しいところ、また来てみたいと思ってもらえればいいのではないかと、南部杯当日の盛り上がりを見てあらためて考えさせられた。
そして南部杯当日の盛岡競馬場では、もうひとつ感心したことがあった。
この日の南部杯は最終レースに組まれたこともあって、表彰式がパドックで行われたのだが、その表彰式終了後、勝ったエスポワールシチーの佐藤哲三騎手は、集まったファンに対してサインや写真撮影や握手など、最後の最後のひとりまで、その求めに応じていた。そしてようやく引き上げる際の佐藤哲三騎手に対し、最後まで残ったファンから拍手が起こった場面は印象的だった。
最近では、JRAの騎手がみずから主導して地方競馬でのイベントや騎手交流レースを企画するなどの行動が目立つようになってきたが、日本の競馬全体を盛り上げようというそうした献身的な姿勢には、ほんとうに頭が下がる。