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武豊騎手の強い決意

  • 2012年11月22日(木) 12時00分
 傾聴に値することばは長い乱世の中で生活者が処世法として身につけてきたものが多い。好調はいつまでも続かない、終わりのない逆境はない、これからもそうだが、そこには油断するなとか、ねばり強くというメッセージが含まれている。

 平穏無事がいつまでも続くという保証がないように、逆境にも終わりのない逆境はないと考えるのが面白いのではないか。そう自分に言い聞かせているのだ。克服のできない困難などというものはあり得ない、強い決意がそこにある。

 その強い決意、マイルチャンピオンシップの武豊騎手に見られた。サダムパテックは、皐月賞で1番人気、ダービーが2番人気であったほどの期待馬だった。当然、それ以後も注目され続けたが、ようやくこの秋でタイトルを手中にできた。前日の雨でインコースが荒れた中、最内枠からどういうレースを進めるか。見る側の懸念は拭えなかった。

 ところが、前半からずっと内ラチ沿いをキープ。そこに、武騎手の強い決意が感じられたのだ。レース後、「差し馬だけどバテないタイプ。一瞬置かれてしまった天皇賞のレース後、そう感じた。だから坂の下りから緩急をつけず出て行こう」と語っていたが、一度の騎乗で何かをつかみ、2度目の騎乗でそれを生かしての勝利だったと言えよう。

 それと、彼自身の強い思いがそこに重なっている。骨折からの悪循環、天才の心の内はさぞかしだったろう。「このままでは終わらない」、そう、克服できない困難などあり得ないという思いだ。へこたれるな、くじけるなの強い思いが決意になって、見事よみがえったGI勝利。西園調教師の語った「豊で勝ったことが大きい」という言葉、多くの人の気持を代弁していた。

 下り坂に向かうきざしは最盛期に現れ、新しいものの胎動は衰退の極に生じる。要は、高い志を持ち続けているかどうかだ。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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