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ダービーに込める思い

  • 2003年05月28日(水) 11時56分
 勝ちたいレースはと質問されたら、大半の騎手は「ダービー」と答えるでしょう。そして、勝つ以前に、まず18頭のいずれかの手綱を取らなければ始まりません。

 今年の3歳馬は2000年に生まれました。その約8400頭の中から、この大舞台に出場できるのがわずか18頭、その馬上で栄冠を手にすることの感激がどれほどのものであるか。かつて、スペシャルウィークで初めて幸運をつかんだ武豊騎手が、抜け出して先頭に立ったとき、興奮のあまりムチを落としてしまったことはよく知られています。

 ダービーは、競馬の祭典です。その場に居合わせる興奮も、他に類がありません。どんな瞬間が訪れるか、みんなが予知したいと願っていたのに、いったんスタートが切られると全てが雲霧と化してしまうのです。自分がどう声を発していたか、クライマックスに向って言葉にならない声を断片的に発したことも認識しないままゴールを見てしまう、そんな2分30秒。正に、特別な瞬間です。

 双眼鏡を手にマイクに向う立場は、そうした異様な雰囲気の中、どれだけ正確にレースを伝えるか、とにかく自分を律しなければなりません。これは毎年のこと。しかし、それだけでは、ダービーを伝えることは適いません。一生にワンチャンスの舞台、そこに登場できた馬たちへの思い、これをどう受け止めて言葉にしたらいいのでしょう。ひと度ゲートに入ったら、18頭全てが平等。ダービーダンディーズとして、心をこめて馬名を言ってあげなければなりません。さらに、馬上の騎手の思い、その背景にある人たち、いくらでも大きく広がっていきます。それらは、一つの強い念となって人馬を覆っていき、馬群というかたまりとなって1マイル半を駈け抜けていくのです。

 今年もダービーに立ち向える幸運。私の双眼鏡は、先輩と合せて50年も、競馬の祭典を見つめてきました。では、今年も。

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ラジオたんぱアナウンサー時代は、日本ダービーの実況を16年間担当。また、プロ野球実況中継などスポーツアナとして従事。熱狂的な阪神タイガースファンとしても知られる。

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