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“サクラ”咲く血の生存本能

  • 2013年03月22日(金) 12時00分
 中山芝1800mのレコードホルダーとして、今もサクラプレジデントの名は載っている。2004年2月の中山記念で樹立(1分44秒9)したものだ。

 皐月賞はネオユニヴァースにアタマ差2着、朝日杯FSもエイシンチャンプにクビ差2着。GIにはあと一歩のところで手が届かなかったが、類まれなるスピードの持ち主であったことは、この9年経っても破られぬレコードが物語っている。

 皐月賞では2番人気、ダービーも2番人気、菊花賞も3番人気。つねに高い支持を集めたサクラプレジデントだったが、ダービーは7着、菊花賞は9着に敗れ、ついに無冠に終わった。

 その潜在能力の高さは誰もが認めるところで、古馬になっての飛躍が期待されたが、4歳秋に屈腱炎を発症。引退が決まり、5歳になった2005年から日高のレックスッスタッドで種牡馬入りした。

 父は遺伝力の確かなサンデー。加えて母系は、サクラトウコウらの成功種牡馬を出している“種牡馬族”の名牝系。日高の救世主として期待され、4年連続で100頭を超す配合牝馬を集める人気ぶりだった。

 ところが、いざ産駒がデビューすると、これが大誤算。同じ年に新種牡馬デビューしたネオユニヴァース、キングカメハメハの派手な活躍とは裏腹に、GIどころかGIIIにも縁がない。人気が急下降して、昨年の種付頭数は11頭にまで落ち込んでしまった。見捨てられる寸前だったと言っていい。

 それがどうしたことだろう。3月の第1週目、サクラゴスペルがオーシャンSで産駒初のGIII勝ちを飾ると、第3週目にはサクラプレジールがフラワーCで、またもGIII勝ちを飾った。

 2008年、初産駒が競馬場でデビューしてから今年2月まで、JRAの重賞勝ち馬を1頭も出していなかったのに、3月に入って立て続けに出したのだ。

 東西を問わず、種牡馬は見捨てられる一歩手前になると、昔からよくこの手の狂い咲き劇を引き起こしている。それが血の生存本能というものなのかもしれない。

血統評論家。月刊誌、週刊誌の記者を経てフリーに。著書「競馬の血統学〜サラブレッドの進化と限界」で1998年JRA馬事文化賞を受賞。「最強の血統学」、「競馬の血統学2〜母のちから」、「サラブレッド血統事典」など著書多数。

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