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昨年を再現した南部杯

  • 2013年10月18日(金) 18時00分
 10月14日に盛岡競馬場で行われたマイルチャンピオンシップ南部杯は、8歳のエスポワールシチーが逃げ切り、昨年に続く連覇でこのレース3勝目とした。

 その南部杯にはさまざまに感動的な場面があったのだが、地方競馬でのそうしたところはなかなか伝えられることが少ないので、ここに書き残しておきたい。

 今回のエスポワールシチーの鞍上は、主戦の佐藤哲三騎手が落馬負傷による長期療養中のため、今回が初騎乗となる後藤浩輝騎手となったのはご存知のとおり。その後藤騎手も落馬負傷の長期療養があり、6日の東京開催で復帰後の初勝利を挙げたばかり。そして後藤騎手にとってこの盛岡の南部杯は、2000年にゴールドティアラで制したのが自身初のGI制覇の思い出の舞台でもあった。

「ゴールドティアラのことは思いっきり意識していました。はじめて勝ったGI、そして今回復帰してのはじめてのGIを勝てたら最高だなと思い描きながら、この日まで来ました」と後藤騎手。

 実は昨年、佐藤哲三騎手は2月にも落馬事故での骨折があり、その後一時、武豊騎手に乗り替っていたことがあった。そして2009年以来2年ぶりとなったエスポワールシチーによる南部杯制覇では、佐藤騎手はこんなコメントを残していた。

「ぼくもエスポ君もアメリカ(ブリーダーズC)に行ってから怪我をしたり、たいへんな思いをしたり、でもここにおられる東北の方はもっとたいへんな思いをしたと思うので、今日はかっこいい勝ち方で強いエスポを見せたいと思っていたので、そのとおりできてよかったと思います。盛岡競馬場に来て、(一昨年)勝った時の声援も覚えているので、また声援をもらって、褒めてもらいたいと思っていたので、そのとおりできてよかったです」。この言葉には、震災の影響で前年の南部杯が東京競馬場で行われ、そしてこの年に盛岡に戻ってきたことへの想いもあったにちがいない。

 しかし佐藤騎手は、この約1か月半後に、今度は命にかかわりかねないほどの大怪我をしてしまった。今回の後藤騎手は、佐藤騎手のそうしたさまざまな想いを理解した上で今回の南部杯に臨んでいた。

「レースでは見続けていた馬ですし、一度調教に乗らせていただいていて、哲三さんからもいろいろ話を聞かせていただいていたので、イメージとして強く持つことができました。哲三さんだったらどのようにするだろうかということを、常に馬に聞きながら乗っていました」

 “馬に聞きながら”という言葉が、いかにも騎手にしかできない表現だ。そして後藤騎手は昨年の映像を見て、右手を斜め上に突き出す佐藤騎手のガッツポーズまで再現したという。それがこれ。

復帰後初GI制覇を決めた後藤騎手


 南部杯は今年も最終レースで行われたため、表彰式はパドックで行われ、そのあとやはり昨年同様に、スタンド2階から餅まきのイベントなども行われた。そして昨年の佐藤騎手がしていたのと同じように、後藤騎手もパドックのまわりに集まったファンのサインや握手の要望に最後の最後までこたえ、そして最後まで残ったファンから大きな拍手が起こったというのも、昨年と同じように感動的なシーンだった。

ファンに応える後藤騎手


 ただ主催者にしてみれば、こうしたことを想像しての最終レースの設定ではなかったはず。昨年10月からJRAのIPATでも地方競馬の馬券が発売されるようになり、その売上げを期待するには地方のメインレースはJRAの最終レース後のほうがいい。実際にJRAと開催日が重なる最近の地方競馬では、メインレースを午後5時前後に設定する競馬場が多い。しかしこの時期の盛岡競馬場は5時半ごろには陽が完全に落ちてしまうため、それを考えれば今年の南部杯の16時40分という発走時刻もギリギリだ。ちなみに昨年の南部杯は、日付でいうと今年より6日早い10月8日。発走時刻は16時45分。この発走時刻の5分繰上げもギリギリの選択だったのだろう、というのは考え過ぎだろうか。

 もし南部杯のあと、さらに最終レースがあれば、最後の最後までのファンサービスというのも難しかったはず。そうしたさまざまな状況が重なっての、2年連続での感動的な南部杯は、岩手競馬が持っている運ともいえるのではないだろうか。

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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