スマートフォン版へ

叩かれて、即乗り替わり――思い出の“1番人気”を語る

  • 2013年11月05日(火) 18時00分
 前回、1番人気での不振に触れた小牧騎手ですが、同じタイミングで、ユーザーから「1番人気に応えることの難しさを教えてください」という質問が。そこで、1番人気に騎乗する際の心構えや、同じ1番人気でも“勝って当然の馬”と“勝つのが難しい馬”がいることなど、体験談を交えて語ってくれました。
(取材・文/不破由妃子)

■1番人気では、とにかく“普通の競馬”を心がける

──10月のワーストレースといって、パッと思い浮かぶレースはありますか?

小牧 ああ、ワンダーアシャードやね(10月13日・京都6R・3歳500万下・1番人気3着)。あれは最低な乗り方をしてしまったわ。普通に乗れば、勝てたレースだったんやけど…。

──具体的にどのあたりが?

小牧 あの馬は、前に壁を作ったらダメなんです。普通に外を回ってきたら勝てる馬やのに、(前走に続き)またみんなに囲まれてしまって。

──内目の枠(3枠)でしたしね。

小牧 うん。とはいえ、本当に最低の乗り方やった。でもまぁ、それが競馬やからね。1番人気やったし、みんなもそう簡単には出してくれんでしょう。もう一度乗せてもらえるから、“次こそは”の気持ちやね。

──ワンダーアシャードも含め、10月に入ってからは『1番人気をよう飛ばしているような…』とおっしゃっていましたが、ここでその1番人気について質問がきています。「福永さんとエピファネイアの戦いを見ていて、人気に応えることの大変さを痛感しました。馬にもよると思いますが、小牧さんが思う1番人気に応えることの難しさとは?」というものです。

小牧 強い馬っていうのは、普通のレースをしたら勝てるんですわ。だからとにかく、普通にゲートを出て、普通にうまく折り合って…っていう、“普通の競馬”を心がけますね。

──競馬ですから、その“普通に”っていうのが難しいんですよね。

なんせ生き物やから

なんせ生き物やから

小牧 そうやねん。相手もいるし、なんせ生き物やからね。ただ、1番強い馬っていうのは、本来そういうもの。ただ、そういう馬が必ずしも1番人気とは限らんし、逆も然りやね。

──2着、3着が続いているような馬の場合、1番人気に推されるのも当然だなと思うのですが、ジョッキーからしたら、それほど自信があるわけではない、ということもありますよね。

小牧 そうそう。そういう馬は、馬券には絡ませることはできるかもしれないけど、なにしろ勝つのが難しい。ジョッキーとしては勝ちたいんでね。1番人気の馬で、2着とか3着はいらないんですわ。たとえばツルマルスピリットとかね。いつも人気やけど、あの馬は本当に勝つのが難しいわ…。

──どなたが乗っても、好位から粘り込んで2着、3着ですものね。逆に、追い込み一辺倒の馬というのも、展開に左右されることに加えて、人間にも我慢が強いられますから、ジョッキーは精神的にしんどそうですね。

小牧 そうやね。でもまぁ、腹をくくるしかない。早めに動いたりしたら、持ち味を生かせずに終わってしまうことがわかってるわけやから。ペールギュントの朝日杯FSがそうやったなぁ(04年)。後ろ(4角15番手)から行って、直線で3着まできたんやけど、レースの後はずいぶん叩かれて。

──そんなこともありましたね。

ペールギュントの朝日杯FSに悔いはない

ペールギュントの朝日杯FSに悔いはない

小牧 あのレースは、すごく悩んだ。人気するのはわかっていたから、普通に勝ちにいく競馬をするべきか、それとも自分が思った通りに、終いに懸ける乗り方をするべきか。散々悩んだ揚げ句、自分がいいと思う乗り方を選んだんやけどね。だから、全然悔いはないです。でも、レースの見た目が悪かったから、すぐに乗り替わりになったけどね。

──それこそ、腹をくくって騎乗されたんですね。

小牧 そうです。2走前のデイリー杯2歳Sでは、後方から驚くような脚を使って勝ってね。次の東京スポーツ杯2歳Sでは、普通の位置(8、9番手)から競馬をしたんやけど、2着にはきたものの、デイリー杯のときのような脚を使ってくれなかったんですわ。これではGIは勝てんと思ったね。

──すぐに乗り替わりになったとのことですが、位置取りについてなど、事前に先生と話し合われたりしなかったんですか?

小牧 うん。しなかったし、指示もなかったんだよね。まぁ先生からしたら、前が残りやすい中山の1600mやし、もうちょっといい位置で…って思ったんやろうね。

──“たられば”になってしまいますが、もっと前で競馬をさせていたら、3着もなかった可能性もある。

小牧 僕はそう思ったから、終いに懸けたんやけど。もちろんわからないよ。いい位置で競馬をさせていたら、勝っていたかもしれんし。でもあのときは、あとで何を言われてもいいから、終いに懸ける競馬をしようって決めたんです。悩んで悩んで出した結論やったから、あのレースは緊張したねぇ。GIで1番人気に推されるのも初めてやったし。でも、本当に後悔はないです。同じ負けるのでも、自分が思った通りに乗って負けたほうが悔いは残らないからね。

【次回の太論は!?】
 今年の凱旋門賞、圧倒的な強さでオルフェーヴルとキズナの夢を打ち砕いたのは、フランスの3歳牝馬トレヴでした。手綱を取ったのは、ベテランジョッキー、ティエリ・ジャルネ騎手。なんとこのジャルネ騎手、小牧騎手のお友達だった!? 次回はこの意外な交友録に迫ります!
質問募集
太論 / 小牧太
このコラムでは、ユーザーからの質問を募集しております。あなたから
コラムニストへの「ぜひ聞きたい!」という質問をお待ちしております。
質問フォームへ

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1967年9月7日、鹿児島県生まれ。1985年に公営・園田競馬でデビュー。名伯楽・曾和直榮調教師の元で腕を磨き、10度の兵庫リーディングと2度の全国リーディングを獲得。2004年にJRAに移籍。2008年には桜花賞をレジネッタで制し悲願のGI制覇を遂げた。その後もローズキングダムとのコンビで朝日杯FSを制するなど、今や大舞台には欠かせないジョッキーとして活躍中。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング