スマートフォン版へ

復活成った5歳ベルシャザール/JCダート

  • 2013年12月02日(月) 18時00分


◆松田国英調教師の理想を叶えたベルシャザール

 来年から「チャンピオンズC(12月の中京ダート1800m)」と名称を変えて生まれ変わることが決まっている最後のジャパンCダートを制したのは、5歳牡馬ベルシャザール(父キングカメハメハ)だった。

 松田国英調教師は、手がけたトップホースを「望まれる繁殖馬にふさわしい成績を残す馬に育て、再び生産界に迎えられること」が最高の仕事だと考えている。自身の手がけた日本ダービー馬キングカメハメハがいまやチャンピオンサイアーとなり、その産駒で再び頂点のGI競走を制する今回のような生産の回転こそ、調教師としての至福である。

 すでに第2回2001年のジャパンCダートの勝ち馬クロフネ(松田国英厩舎)が、2005年の朝日杯FSを制したフサイチリシャールの父となっている。自身の手がけた馬から次代のGIホースを送り出したのは初めてではないが、日本ダービーをレコードの2分23秒3で圧勝したキングカメハメハ産駒でのGI制覇となると、これはまた格別ではないかと思われる。

 松田国英調教師の手がけた歴史に残る名馬の代表は、クロフネ、タニノギムレット、キングカメハメハ、ダイワスカーレット、ダノンシャンティ……。歴史的な名牝となったダイワスカーレットを別にすると、自身でも認めるように活躍期間が短く、残念ながら故障のために早期の引退を余儀なくされたトップホースが目立つが、頂点のダービーや、GIを勝って、さらに高額のシンジケートが組まれる種牡馬となるならそれ以上のことはありえないはずである。

 頂点のGI勝ち馬に「故障しないでもっと長く活躍してくれたら」は、多くの場合、ぜいたくな望みとなる一面がある。ダービーを制するためには受け入れなければならない負担がある。NHKマイルCを快走するときにも受け入れなければならないことがある。勝者には、必ず失うものがある。だから、名誉が残るのであり、それは長く活躍して欲しいと思うのは当然ではあるが、松田国英調教師の手がけたトップホースに早期引退馬が多いのは、当たり前のことでもあった。しかし、近年は少し流儀を変えた印象がある。このGI制覇がまた大きな進展の契機となるだろう。

 5歳ベルシャザールは、オルフェーヴルと戦った3歳春以降、のど鳴りの手術や1年以上にも及ぶ骨折休養期間を経て、見事に復活してみせた。携わる調教助手さんの感激が画面を通して伝わってきた。クロフネ、タニノギムレット、キングカメハメハなどとは違った過程を経たチャンピオンである。やっぱり松田国英厩舎らしい独特の体つきになった気もするから、おそらくダートこそ最適と思える。息の長いダートチャンピオンに育っていくことを期待したい。同じオルフェーヴルの5歳世代では、前日の「金鯱賞」で、1年半もの長期休養をへて屈腱炎から立ち直って3着したウインバリアシオン(父ハーツクライ)も見事だった。偉いというしかない。有馬記念に登録するかもしれない。

 ベルシャザールのC.ルメール騎手は、ジャパンCダートが阪神ダート1800mに移った最初の2008年にカネヒキリ(父フジキセキ)で勝っている。阪神のジャパンCダートは、ルメールのカネヒキリで始まり、ルメールのベルシャザールで幕を閉じることになった。屈腱炎の画期的な再生手術で2年以上も休むなど、再三再四の脚部難を乗り越えたカネヒキリは、種牡馬となると最初から多頭数交配をこなし、2012年生まれの産駒がなんと100頭もいる。来年2014年には2歳デビューすることになる。

◆まだ4歳、もっと強くなれるホッコータルマエ

 今開催の開幕週の阪神のダートは、短距離では目立たなかったが、1800m以上になるとかなりタフなコンディションだったかもしれない。8歳の引退レースを迎えたエスポワールシチー(父ゴールドアリュール)の先導は、3ハロン目に13秒4のラップを含み前半1000m通過「61秒6」。決して厳しいペースとはみえなかったが、そのわりにレース上がり「48秒8-36秒6-12秒6」もさして速くはなく、先行タイプのスタミナが削がれる馬場だったのだろう。

 8歳の暮れながら元気あふれるエスポワールシチーは、後続にピタッと接近される形がペース以上にきつかったか。ただ、南部杯、JBCスプリントと激走して2連勝の8歳馬。元気いっぱいはたしかでも、さすがに押し切る活力は残っていなかったということだろう。自身を上回るようなタフな産駒を送る種牡馬になりたい。

 人気の中心ホッコータルマエ(父キングカメハメハ)は、スキなしの2番手追走から抜け出しけた直線はそのまま押し切れるかと思えた。自身の最後は「36秒6-12秒7」だから、バテたわけでも鈍ったわけでもないが、キングカメハメハの産駒にみられる最後の「決定力」不足が出た印象もある。ここまでに制したGI格のレースは「かしわ記念」「帝王賞」「JBCクラシック」。文句なしの内容ではあるが、強敵の少ない組み合わせで、バラけた展開が多く、さまざまな能力接近のタイプとしのぎを削るような競り合いの経験が少ないのが死角だったかもしれない。まして、まだ4歳である。ジャパンCダートは14回行われ「3歳馬…3勝。4歳馬…2勝。5歳馬…7勝。6歳馬…2勝」の記録を残した。ことダート界では、さまざまなチャンピオン級が揃うと、4歳馬はまだまだ「若い」のである。5歳になる来季はもっと強くなること必至だ。

 勝った5歳馬ベルシャザールは、ダートこそまだ6戦目だったが、3歳春のクラシック路線のスプリングS(オルフェーヴルの0秒1差2着)、皐月賞、ダービーでは、前出ウインバリアシオンなどとも戦ってきた実力の裏付に加え、カネヒキリではないが、脚部難、のど鳴り手術など重なる苦境を乗り越えてきたキャリアがものをいったかもしれない。外からもまれることなくスムーズにホッコータルマエを射程に入れて進出することもできた。その影響力がどのくらいあるかはともかく、母の父サンデーサイレンス。追い比べでの決定力の差はたしかに認められた。

 7歳ワンダーアキュート(父カリズマティック)は、3年連続の2着。前2年は完敗の2着だったが、今年は惜しかった。先行タイプも早めにスパートする馬も多いから、最近数戦とは一転、武豊騎手がタメて突っ込んでくることは推測できた。この馬だけ上がりはNO.1の35秒9。一瞬交わせるかとみえたが、「近づいたら、勝った馬がまた伸びた」(武豊騎手)。ジャパンCダートを7歳で連対したのはこの馬が初めてである。

 4-5歳馬が上位を占めたように世代交代は進んでいる。でも、競走馬に対する認識が変化しているのも事実であり、トウカイトリックより4つも若い。このあと東京大賞典の予定だが、左回りのJBCクラシック(川崎)を勝ったことがある。中京ダートで勝った星もある。来年のチャンピオンズCが待っている。

 ホッコータルマエ逆転の1番手と期待された5歳ローマンレジェンド(父スペシャルウィーク)は、内枠の不利などないと思えたが、最初から馬群にもまれてしまった。59キロで休み明け激走の反動はなかったが、レースは計算通りに運ぶものではないから仕方がない。全然レースをしてない印象が濃いから、たちまち巻き返せるだろう。昨年の東京大賞典制覇は、ジャパンCダートを1番人気で4着凡走のあとだった。

このコラムをお気に入り登録する

このコラムをお気に入り登録する

お気に入り登録済み

1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

バックナンバー

新着コラム

アクセスランキング

注目数ランキング