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レースレベルはあまり高くない危険大/朝日杯FS

  • 2013年12月16日(月) 18時00分


◆レースレベルは疑問も勝ち馬の将来性は文句なし

 3戦3勝の、異色の2歳牡馬チャンピオンが誕生した。グレード制を導入した1984年以降、芝のレース未経験馬が芝のGIを制したのは初めてのことになる。また、当日の馬体重528キロも朝日杯FSの勝ち馬として、史上最高だった。アジアエクスプレス(父ヘニーヒューズ)の芝、ダートを問わないスピード能力は高く評価されていい。大きな体のためか、柔らかいフットワークをもたらす身のこなしなど、いかにも未完成を思わせ、まだ緩い印象さえ強いくらいだから、迫力を前面に出してくるのはこれからではないかと期待できる。

 すでに来春から日本で供用されることになっている種牡馬ヘニーヒューズ(父ヘネシー、母の父メドウレイク)は、輸入されたヘニーハウンドがファルコンS芝1200mを勝っている。これは完成度の早さを売りにするヘネシー(父ストームキャット)系の大きな特徴のひとつだが、現3歳ケイアイレオーネ(560キロ台)が秋にダート2000mのシリウスSを豪快に追い込んで勝つなど、必ずしも早期のスピード能力だけが持ち味ではないことを示している。

 今年は、キズナやアユサンの母の父に登場したのをはじめ、種牡馬ヨハネスブルグ(父ヘネシー)産駒の大活躍など、なにかと代を経た名種牡馬ストームキャットの血が大きな脚光をあびたが、アジアエクスプレスの芝1600mのGI勝ちは、導入されるヘニーヒューズのなにより強力な名刺代わりとなった。アジアエクスプレスは体型から2000mくらいはこなすかもしれない。

 早熟性を最大の売りとする血統背景をもつ外国産馬、持ち込み馬は、これまである日気がつくと何でもない馬に変っていたりするから、回収に成功したオーナーはともかく、多くのファンにはあまり好ましいイメージを持たれていなかった。ヘネシー系などその代表格だが、ケイアイレオーネや、アジアエクスプレスが新しい時代を築いてくれるかもしれない。

 当初、18日の「全日本2歳優駿(川崎ダート1600m)」に出走意思を示していたアジアエクスプレスは、除外されてこちらに回り、それで快勝してみせた。ムーア騎手は当然、高額賞金の朝日杯を進言していたといわれる。期待以上の芝適性を示し、柔らかい体を生かした大きなフットワークで芝GIの1600mを勝ってみせた将来性は文句なしだが、しかし、多分に相手に恵まれたのも確かだろう。

 1分34秒7のレースの中身は、前後半バランス「46秒8-47秒9」。前半1000m通過は「58秒6」。レース上がりは36秒1-12秒1だった。最近10年間で2番目に遅い勝ちタイムは、今季の中山の芝はマイルで少なくとも「0秒7-0秒9」くらいの馬場差があると思えるから、時計はそれほど気にしなくていい。同日の12R。必ずしもレベルが高いとはいえない1600万条件の南総S芝1600mが「46秒5-47秒7」=1分34秒2。また、前日、やっぱりあまりレベルが高くない1000万平場(500万の馬が5頭も含まれた)が、「46秒9-48秒4」=1分35秒3だったから、牡馬の重賞勝ち馬が1頭もいなかった2歳戦なら、GIとはいえ、時計はこんなものだろう。

 だが、もうみんな承知のように、前日の2歳500万下の「ひいらぎ賞1600m」は、ゆっくりハナに立ったミッキーアイル(父ディープインパクト)が楽々と逃げ切り「47秒4-46秒8」のバランスで「1分34秒2」だった。前半の半マイルが朝日杯FSより0秒6も遅いゆったりペースで、1000m通過は0秒9も遅い59秒5で展開したのに、ミッキーアイルは上がりを34秒7-11秒7でまとめて1分34秒2だったのである。

 キャリアの浅い2歳馬だから、レースのペースに左右される面が非常に大きい。中山のマイルGIとすれば無理のない平均ペースを味方に、ふつうは朝日杯FSの方がはるかに走破タイムが速くなって不思議ない。それが逆に、明らかにスローで展開したミッキーアイルの勝ちタイムに「0秒5」も見劣ってしまったのは、こと記録(数字)の上では、ワンランク、あるいはクラスが2つ下である。

 みんなキャリアの浅い2歳馬だから、中身に疑問のあるレースで1度凡走したくらいで、レベルうんぬん、まして将来性うんぬんをいわれる筋合いはないのは、百も承知。しかし、みんなが目標にしたGIレースとはそういうものではない。2歳馬のランキングの基盤になる。今年の出走馬はみんな、これから大きく変身してパワーアップしなければならない。

◆オーラが乏しかったプレイアンドリアル

 そういう期待をこめて、まず、1番人気のアトム(父ディープインパクト)。残念ながら、父ディープインパクトのいいところが少ない。豆タンクのように元気あふれる馬体は力強いが、ピッチ走法というのでもない。少なくとも現時点ではフットワークに伸びがなく、回転が小さく、肝心のバネが乏しい印象が残った。だから馬群をうまくさばけず、終始もまれて、スムーズにスパートできずに脚を余している。それは当然、これがいっぱい一杯で脚を余していなかったら、もうお先真っ暗である。鍛え直して春に出直したい。

 2番人気のプレイアンドリアル(父デュランダル)。スケールある馬体と、大きなフットワークが魅力で、自分も大いに期待しておいていうのは気がひけるが、案外、雰囲気がなかった。この日だけかもしれないが、「ああ、いい馬だなぁ」と引きつける名馬のオーラが乏しかった。あまり中山の1600mが合わないのは、陣営はもちろん、みんな承知。相手有利なGIに目がいってしまったのが失敗である。馬場入りしたら、せめて返し馬くらいはできるようになってから、出直しである。鍛錬だけではない。鞍上との意思疎通を覚えなくては、GIは苦しい。ほかにもカッカしすぎて返し馬にも入れない馬が複数いたあたり、今年は精神的に幼すぎる馬が多かったかもしれない。

 3番人気の牝馬ベルカント(父サクラバクシンオー)。同馬の3番人気は能力を評価されたものではなく、武豊騎手のJRA22の全GI制覇がかかっていたから単勝だけ売れた3番人気と思えるから、あえなく失速はかわいそうだった。たしかに全体レベルは低いとはいえ、さすがにそこまでは低くなかったということである。桜花賞を展望しようかという馬が「阪神1600mは苦しい。中山の1600mならコース形態が合う」とする選択は、一見、そうなのかと聞こえるが、考えてみれば、そんなことはないはずである。阪神の1600mが保ちそうもないというなら、中山の1600mはもっと苦しい。今年、阪神JFは「58秒4」の前半であり、朝日杯FSは「58秒6」だった。陣営のペースの読みは、半分は正しかったが、スタミナが備わっていなかった。

 抜け出したショウナンアチーヴ(父ショウナンカンプ)は、一瞬押し切れるかとも映ったが、最後は1400mまでの経験しかない弱みが出たのだろう。ショウナンカンプ(父サクラバクシンオー)の産駒は、父のようにスピード能力を前面に出さない代わりに、1600-1800m級までこなせるかもしれない。外の不利が大きかったと思えるショウナンワダチとともに、春に向けて着実にパワー強化に努めたい。

 好スタートのウインフルブルーム(父スペシャルウィーク)は、内のマイネルディアベル(父ナイキアディライト)とともに、今回の1600mの流れにもっとも巧みに乗ったグループか。ともに争覇圏に位置しただけに、36秒前後のフィニッシュが物足りなかった。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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