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【特別企画】北村宏司騎手の『私の恩人』(2)―精神的な悩みを人に相談することはなかった

  • 2014年01月30日(木) 18時00分
北村宏司騎手

大先輩である岡部幸雄氏と


 藤沢和雄厩舎といって忘れてはならない人物といえば、長年にわたり、その主戦を務めた岡部幸雄である。岡部といえば、北村がデビューするはるか以前から説明不要の“名手”であり、日本競馬界の顔ともいえる存在だった。ちなみに、北村がデビューした時点で、岡部はすでに50歳。“先輩”と呼ぶには、あまりにも偉大過ぎる存在だったに違いない。

 当たり前ですが、とても僕のほうから話しかけることができるような存在ではありませんでした。普段の調教でもそうでしたが、競馬場に行くとさらにピリピリされていて、そんな岡部さんを前に、僕はいつもドキドキしていました。最初は、怒られてばかりといいますか、声を掛けてもらえるイコール、怒られるときでしたね。ただ、怒られるということは、僕のことを見てくださっているんだなと感じていました。

 その後、徐々に徐々にお話できるようになったんですが、まず岡部さんから学んだことといえば、人に何かを聞くときは、その前に自分でよーく考えてから質問をしなければいけないということ。行き当たりばったりで岡部さんに質問しようものなら、あっという間に見透かされてしまいますからね。思い付きのように何かを聞いてくる人に対しては、それなりの答えしか返してなかったように思います。“人と話をするときの礼儀”として、僕自身、すごく考えるようになりましたね。

 もちろんそれ以外にも、岡部さんから影響を受けたことは言い尽くせないほどありますが、今になってすごく思うのは、乗り方が毎年変わっていたほど、常に研究を怠らない方だったということ。それは、引退されるまで変わりませんでした。体のメンテナンスにもすごく気を遣われていて、週末の競馬に合わせていかに体調を整えて、いかにレースに気持ちを集中させるかという努力を続けられていましたし、レースが終わったら終わったで、ひとつひとつをいかに忘れないようにするかを大事にしていらっしゃいました。とにかく、記憶力がものすごいんです。自分の馬だけではなく、他の馬の動きも覚えていましたし、ジョッキーの癖なども全部頭に入ってましたから。きっと、競馬を見るときの集中力が違うんでしょうね。


北村宏司騎手

北村「岡部さんの影響は言い尽くせないほど」


 僕も少しでも長く騎手を続けたいと思っているので、体のコンディションをきちんと保つのはもちろん、モチベーションを維持できるよう、岡部さんを見習っていろいろ勉強したり、騎乗フォームなども意識しながら乗るようにしています。とはいえ、なかなか思うようには巧くならないんですけどね。

 岡部さんは、競馬でもプライベートでも、そのときどきで気付いたことをパッと言ってくださる方で、それは今でも変わりません。ついこの前も、ご飯に誘っていただいたんですが、そのときに僕が去年からずっと手こずっていたグリューネヴォッヘという馬について細かくアドバイスしてくださって、そのあとすぐに勝てたんです(1月5日・中山6R)。岡部さんのアドバイスのおかげというより、それがほとんどですが(笑)。


 2011年、約13年間所属した藤沢和厩舎を離れ、フリーとして新たに歩み出した北村。引き続き、藤沢和厩舎の管理馬に数多く乗りつつも、それ以外の厩舎での騎乗も確実に増え、2012年には、過去最多となる88勝をマーク。昨年はさらに数字を伸ばし、自身初となる年間100勝を達成(101勝)するなど、着々と階段を上りつつある。

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