◆近年でも珍しい、比較の難しい、非常に楽しいクラシック直前 新星
ロサギガンティア(父フジキセキ)が非常に強い内容で、2歳チャンピオンのアジアエクスプレス(父ヘニーヒューズ)を倒し、有力候補の1頭に躍り出た。前日の「若葉S」2000mでは、これも明らかにランキング上位だったウインフルブルーム(父スペシャルウィーク)を、急上昇アドマイヤデウス(父アドマイヤドン)が差し切って候補の1頭に浮上するなど、2歳後半まで牝馬に押されていた3か月ほど前までとは様相一変。男馬のクラシック路線には、甲乙つけがたい候補が次つぎに急上昇する形になった。
ほとんどの候補が例年より遅れて台頭の構図になっているから、ここまで注目馬の直接対戦はいつもの年より少ない。近年でも珍しい、比較の難しい、非常に楽しいクラシック直前である。
皐月賞に挑戦するローテーションでは、「中3週」になるこのスプリングSがもっとも本番に向けての調整、仕上げに苦心する日程ではない。最近10年間の皐月賞の勝ち馬に限定すると、2013年のロゴタイプ、2011年のオルフェーヴルなど、スプリングSをステップにした馬が「5頭」も勝っている。同じ週の「若葉S」も2007年の勝ち馬ヴィクトリーを送り、こちらも2着馬がなんと4頭もいる。中3週での挑戦になる「スプリングS+若葉S」を合わせると、このステップが約半数の14頭を占める。
最近10年間の皐月賞馬で3着以内に好走した「30頭」の直前のレースは、
▽中3週のスプリングS組…… 8頭(勝ち馬5頭) 13年アンライバルドなど
▽中5週の弥生賞出走馬 …… 12頭(勝ち馬3頭) 10年ヴィクトワールピサなど
▽中3週の若葉S出走馬 …… 6頭(勝ち馬1頭) 07年ヴィクトリーなど
▽中7週の共同通信杯組 …… 3頭(勝ち馬1頭) 12年ゴールドシップなど
▽3か月の京成杯出走馬 …… 1頭(勝ち馬0頭) 10年エイシンフラッシュ
勝ち馬に限るなら、半分の5頭を送るスプリングS組であり、ゆったりした間隔を味方にしてもっとも多くの好走馬を送っているのが弥生賞。かつて中山で行われていた注目レース「若葉S」は、関西に移った当初は路線から外れかけたが、再び重要度を増している。というのが最近10年の主なパターンである。今年、京成杯を制したプレイアンドリアルは皐月賞には間に合わないから、
▽「スプリングS」 ロサギガンティア アジアエクスプレス
▽「弥生賞」 トゥザワールド ワンアンドオンリー
▽「若葉ステークス」 アドマイヤデウス ウインフルブルーム
▽「共同通信杯」 イスラボニータ (2着ベルキャニオンはスプリングS6着)
これらが、有力候補として人気上位を集めることになり、そこに、ふつうはスプリングSなどに出走するが、今年は共同通信杯組よりもう少し長い約2か月ぶり(中9週)のぶっつけとなる
▽「きさらぎ賞」 トーセンスターダム バンドワゴン
が加わることになる。
いつものようにスタートで出負けしたロサギガンティアは、中山コースだといつも以上に強気に乗るM.デムーロ騎手だから、気合を入れて1コーナーではたちまち後方馬群のインに押し上げ、そこからも終始最内を通りながらスルスル進出。向う正面では人気のアジアエクスプレス、ベルキャニオン(父ディープインパクト)のインに追いついていた。
と、そこでひと息入れて待つどころかもっとも早くスパートしたのがロサギガンティア。レース全体の流れは「前半48秒2-1000m通過60秒3-後半48秒1(上がり36秒0)。
ずっと一定の平均ペース「最速11秒4。遅い部分でも12秒4」だから、この進出も、早めのスパートに無理はかかっていなかったことになるが、例年よりタフな芝コンディションを考えると決して楽ではなかったろう。見た目には、なんとしても結果を残さなければならない代打M.デムーロ騎手の騎乗はやや強引にも映った。
それで、追いすがってきたアジアエクスプレス、クラリティシチー(父キングカメハメハ)を楽々と突き放し、最後のフットワークはもっともしっかりしていたように見えたから、ロサギガンティアの勝ち方は本物である。2歳チャンピオンのアジアエクスプレスを封じ、東京スポーツ杯でイスラボニータと差のなかったクラリティシチーを完封。さらには、相手が力を出し切ったとはいえないものの、共同通信杯でやっぱりイスラボニ―タと差のなかったベルキャニオンに完勝である。
◆「ついに、とうとう」の形容詞をふんだんに用いた勝利を称える拙文をぜひ載せたいと切望するが… 最有力候補の1頭に躍り出た
ロサギガンティアの魅力は大きい。ただし、死角も大きい。
知られるように、これが種牡馬フジキセキの送った16代目の最終世代になるが、ここまで全国で1059頭が、平地で計3259勝(3月中旬現在)を記録している。しかし、GI馬は計9頭を数えても、不思議なことにJRA3歳クラシックは「未勝利」である。
管理する藤沢和雄調教師も、圧倒的な勝ち鞍を記録しながら男馬のクラシックは「未勝利」。
デムーロ騎手は短期免許が切れるから、本番の皐月賞はベテラン柴田善臣騎手(47)に替わると伝えられる。フジキセキの場合と同じで、まったくたまたまの巡り合わせと思えるが、柴田善臣騎手は、歴代のトップジョッキーの中にあって出走回数ランキング最上位にも相当するクラシック騎乗を誇りながら、昨年まで77戦【0-6-2-69】。勝った記録はない。
よりによって、「フジキセキ=藤沢和雄=柴田善臣」が成立する運びとなる。
個人的には、「ついに、とうとう」の形容詞をふんだんに用いた勝利を称える拙文を、ぜひ載せたいと切望するが、勝負ごとの鉄則からすると、その勝利確率は限りなく「……」かもしれない。
ふつうは買えないマイナス要素が3つも重なりあったらどうなるのかも知りたい。果たして、わたしたちは、歴史的な「キセキのクラシック制覇」を目にすることができるのだろうか。
ロサギガンティアのファミリーは、底力を伝える牝系として近年もっとも評価の高いドイツ血統であり、ロサギガンティアはこれまでのフジキセキ産駒より速い脚が長つづきする。今季の中山の芝も平気だった。この牝系なら距離不安は当てはまらない。
アジアエクスプレスはこの2着で、追加登録のクラシック挑戦となるだろう。今回はギリギリの仕上げではありえないから、2着確保はさすがだった。体全体のバランスも一段と良くなり、迫力あふれる返し馬のフットワークなど他を圧倒するものがあった。ただ、今回は馬群にもまれ、とくに被されたというほどでもないが大跳びのストライドを生かし切れなかった印象がある。これで1800mはこなしたが、それはG前のクラリティシチーが止まったからでもあり、2000mへの延長は大きな課題として残った。
クラリティシチーは、この回顧で絶賛したレースもあったが、新馬を鮮やかに勝ったあと、いちょうSから順に「3、3、3、2、3着」。脚を余したレースも、早く動き過ぎたかと思えるレースもあったが、勝てないのはいつも同じ。同厩のダイワメジャーは急上昇したスプリングS3着を皐月賞制覇に結びつけたが、この馬はいま昇り調子とはいえないところがある。
2番人気の
ベルキャニオンは、タフな芝を乗り切るにはディープインパクト産駒らしくないところがいいと思えたが、今回はそれにしてもモッコリ見せる体つきで、道中はもまれてかかるのをなだめていた。完成度は低い。まだ脱落したわけではないが、クラリティシチーと同じで、急上昇カーブに乗って本番に挑戦ではなくなったから厳しいだろう。
モーリス(父スクリーンヒーロー)は、一応は距離をこなして詰めてきたが、一段と寸詰まりの迫力体型に映ったから、このあとはマイラー路線での上昇に期待したい。凡走グループの中では、
ミッキーデータの迫力ある馬体がひときわ目立った。