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着差以上の完勝/皐月賞

  • 2014年04月21日(月) 18時00分


◆名馬が並ぶ共同通信杯&皐月賞優勝馬

 有力候補の人気順が一転二転した接戦を制したのは、イスラボニータ(父フジキセキ)だった。クラシックの勝ち馬となるには、もちろん優れた能力を秘めることは当然として、ライバルを封じるには、だれよりも大きな「幸運」を伴う必要がある。改めてそう感じた。

 混戦がささやかれる中、流れに乗りやすい内の2番枠を引き当てた。雨は避けられ、芝はパワー優先のタフなコンディションから、かなり走りやすい状態に変化した。乱ペースに陥る危険は少ない。心配は、自身がムキになって行きすぎることくらいか。当日、蛯名正義騎手は、自陣営の信頼するスタッフに「互角のスタートから行きたい馬の直後につければ、まず、勝ち負け。でも、それだとダービーの2400mで行きたがってしまう危険が生じる。この枠で下げるわけにもいかないが…」と、心配していると聞いた。それは心配ではない。ダービー展望である。

 スタートのうまいイスラボニータは無難に出た。すんなり好位のイン確保かと見えたが、ウインフルブルームだけでなく、アジアエクスプレストゥザワールド。さらにはトーセンスターダムまで出足が良く、1コーナーを回る地点では、好スタートのイスラボニータは自然と7-8番手のイン追走になっていた。それで気分良く折り合っている。なんとライバルの出方が、蛯名騎手(イスラボニータ)の「先行策ではなく、少し控えて進みたい」というダービー展望の大きな課題を手助けしてくれることになったのである。2コーナーあたりでもう、ビッグレースの勝ち馬だけに待っているシーンが訪れた。まるでエアポケットのように、自分の前にも、外にもスペースがある。内にアドマイヤデウスがいるだけ。直後の馬も接近して突っかかってきているわけではない。

 そのうえ、すぐ前にいるのが最大の強敵トゥザワールド(1番人気)であり、怖い武豊騎手のトーセンスターダム(3番人気)である。展開注目馬のウインフルブルームも離して飛ばしているわけではないから射程内。あとは仕掛けのタイミングだけだった。

 500万条件の馬まで出走できた今年の男馬の春のクラシックは、上位数頭に侮りがたい候補は並んでも、あと京都新聞杯、プリンシパルSでフサイチコンコルド型の未知の新星が出現してこないかぎり、皐月賞の上位グループがダービーの有力候補になるだろうとされている。ダービーも視野に入れながら、振り返りたい。

 レース全体は前後半「60秒2-59秒4」=1分59秒6。ちょうど中盤に1ハロン12秒7と緩んだ部分を含む、ムリのない平均ペースである。この流れの7-8番手で3コーナーを回ったイスラボニータは、レース後、蛯名騎手は「早めに一気に仕掛けて行った」と振り返るが、見た目には、ひと呼吸どころかもっとスパートを待って我慢し、自信にあふれた本気のスパートは4コーナーに向く直前だったように映った。流れに乗って先に抜け出したトゥザワールドを目標に、坂を上るあたりでちょっと内にささるように見えたが(手前を変えた直後か)、坂を上がってから楽に1馬身4分の1差は、着差以上の完勝としていい。

 スピード豊かなタイプだけに行きたがるのが課題だったが、中位からの差し切りを決めた蛯名騎手の自信(手ごたえ)は大きい。折り合いの不安はほぼ解消された。母イスラコジーン(その父コジーンの日本での代表産駒は、オークス馬ローブデコルテ、安田記念のアドマイヤコジーン)は、社台グループの擁する牝馬にしては珍しいくらい近くにゴシックタイプの少ない牝系出身だが、良くいえばタフな雑草タイプに近いのかもしれない。皐月賞組からは、ダービー挑戦をあきらめる馬が何頭も出そうな状況も有利になるだろう。

 最終の16世代目から初のクラシック勝ち馬を出現させたフジキセキの産駒は、これで皐月賞成績【1-3-0-5】となった。日本ダービーはこれまで【0-0-1-10】。2006年のドリームパスポート(皐月賞2着、菊花賞2着)が3着しただけだから、当然、距離不安は残るものの、今年の2400mの日本ダービーが、極限のスタミナ能力を問われるような厳しいペースになる可能性は低い。ライバルとて、2400mへの延長歓迎タイプは少ない。過去、東京1800mの共同通信杯の勝ち馬として皐月賞を制したのは、1975年カブラヤオー(日本ダービーとの2冠馬)、1983年ミスターシービー(3冠馬)、1994年ナリタブライアン(3冠馬)、2012年ゴールドシップ(菊花賞との2冠馬)の4頭だけである。イスラボニータの日本ダービー展望をさえぎる要素は一気に少なくなった。

◆ウインフルブルームは2400mで冒険を、アジアエクスプレスは1ハロン長い印象

 2着トゥザワールド(父キングカメハメハ)は、前出の平均ペースの流れに乗って、力を出し切っての2着だったろう。陣営の、素直に勝ち馬を称える姿勢は好感がもてた。結果はイスラボニータの格好の目標になってしまったあたり、ハープスターとは一転、川田騎手はあまりにそつなく乗りすぎた印象がなくもないが、好馬体と、切れのいいフットワークは光っていた。イスラボニータより2400mの適性は高いのではないかという希望はあるが、ここは見解の分かれるところで、この馬こそ皐月賞向きだったとする見方も否定できない。心配は、もともとGIでは2-3着の多いファミリーの特徴をやっぱり見せてしまったことか。

 ウインフルブルーム(父スペシャルウィーク)の巧みなペースの逃げ、粘り腰は見事だった。ダービー挑戦か、あるいはNHKマイルCに方向転換かとされるが、個人的にはNHKマイルCに合うスピード型ではないように感じられる。粘り強いが、爆発力がない。東京のマイルでは善戦止まりだろう。日本ダービーの2400mなら、今回は捕まったが、これを糧に一世一代の果敢な逃げも望めるタイプではないかと思える。冒険ができるのは2400mである。

 4着ワンアンドオンリー(父ハーツクライ)は、弥生賞2000mにつづき、皐月賞での上がり34秒3もメンバー中No.1の末脚だった。今回はスタート直後の行き脚が鈍く、途中で脚を使っては意味がないから、やむなく最後方追走を受け入れるしかなかった。3コーナー手前から外を回ってスパート開始は、中山コースだと勢いよく差は詰めてきてもゴール前は失速の典型パターンである。あそこからは約800mある。でも、まだ猛然と伸びていた。したがって、負けはしたが、衆目一致のダービー候補の1頭だろう。母方にスピード色が濃い点が心配だが、3歳春のクラシックの時点では別に長距離型である必要もない。初制覇が大きな話題のひとつだった今年、橋口調教師=横山典弘騎手コンビのGI成績はこれで【0-7-0-13】となった。果たして橋口調教師、悲願の日本ダービー制覇なるのだろうか。

 5着に突っ込んできたステファノス(父ディープインパクト)は、追撃態勢に入ってから重心を低くして突っ込んでくる姿勢がいい。祖母は南部杯など力強い差し脚で9勝した外国産馬ゴールドティアラ(父シーキングザゴールド)。パンチあふれるディープ産駒のマイラーではないか、という印象大だが、このあとどんな路線になるのだろう。坂上の伸びが印象的だった。

 6着アジアエクスプレス(父ヘニーヒューズ)は、果敢に見せ場を作ったが、どう乗っても1ハロン長い印象だった。これは本質マイラー系のスピードタイプだからやむをえないところがあり、大健闘である。放牧に出てひと息入れ、別の路線を目ざす予定とされる。

 10着にとどまったロサギガンティア(父フジキセキ)は、ただ1頭だけ、パドックで最初からイレ込んでいた。興奮しすぎたというより、猛者を目の前にたじろぎ、おじけづいたような仕草から、まだ精神的に幼い面が出てしまったのだろう。大事に成長をうながす流儀だから皐月賞は苦しかった。NHKマイルCではないか…とされる。短期間でも、鍛え直しの特訓である。

 トーセンスターダム(父ディープインパクト)も、また違った意味で成長の途上だった。ムリに負担をかけずにここまで3戦3勝。皐月賞は、好走できるならそれは望外、あくまで大きな目標は日本ダービーだった。ただ、まだ重心の定まらないかのような走法、身のこなしともに頼りなさすぎた。経験の浅さで失速したから、11着は仕方がないが(6着でも8着でも同じこと)、では、日本ダービーで一変できるかとなると、希望的な立場に立つ人間と、懐疑的な立場の人間では、まるで見解が逆になりそうである。

 中団のインでイスラボニータと並んでいたアドマイヤデウス(父アドマイヤドン)は、画面で見ていた関西のレースよりはるかに大跳び。中山コースでのイン追走は合わなかった。東京コースなら…の望みは残った。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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