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本番でも怖いサングレアル/フローラS

  • 2014年04月28日(月) 18時00分


◆サンテミリオンを超えるレースレコードでの決着

 このあとが心配になるほどの超高速馬場としてスタートした京都ほどではないが、整えられた東京の芝コースも非常に時計が速かった。ほとんどのレースがスローで流れたため目立たないが、このレースの「2分00秒0」はレースレコードである。

 これまでのレースレコードは2010年の2分00秒2(60秒6-59秒6)であり、先行して抜け出したサンテミリオン(父ゼンノロブロイ)は、アパパネと同着になった「オークス」を勝っている。さらに、そのフローラSを逃げて2着に粘ったアグネスワルツ(父ゼンノロブロイ)は、オークスでも先行して同着の2頭に続く3着だった。

 今年の流れは、2010年とほとんど同じバランス(60秒7-59秒3)であり、先行して抜けた10年のサンテミリオンの上がり3ハロン34秒6に対し、追い込んで勝ったサングレアル(父ゼンノロブロイ)の上がり3ハロンも34秒3である。馬場差はある。勝ち馬の位置取りも異なるが、フローラSの歴史の中で、ほとんど同じような評価となる内容と思える。まして、勝ち馬は同じゼンノロブロイ産駒である。

 サラブレッドだから成立する不思議は、サンテミリオンは数多くのファミリーナンバーのうちの「16号族」に属する。サングレアルのそれも「16」である。つまり、さかのぼれば牝祖は一致する。サンテミリオンの15代前の母は1850年生まれのミスアグネス Miss Agnes(GB)であり、サングレアルの場合は、その16代母が同じミスアグネス(父バードキャッチャー)である。さすがにもう同じ一族とも、遠い親戚ともいえないが、2頭は、正確な血筋こそが基盤のサラブレッドゆえ、同じファミリーの出身と分類される。それが同じゼンノロブロイ産駒であるから、オークスに結びつく因縁が生じても不思議はない。

 そういうサングレアルは、ブエナビスタ(父スペシャルウィーク)の4分の3同血の妹。3歳春は450キロ前後だったブエナビスタに比べると2回りは小さく、今回は414キロだった。それだけにちょっと非力な印象もあり、今回は4番人気にとどまったが、時計が示すように決してレースレベルは低くないと思えるから、本番のオークスでも怖い。松田博資調教師いわく「もう体は減るところがないから、上積みはいくらでもある」。

 うまくインのポケットで前半を折り合って進み、最後の直線はカベとなりそうな先行馬を嫌って外に進路を求めると、猛然と伸びてきた。迫力はともかく、先に抜け出して勝ったと見えた馬をきっちり鋭く捕らえるのはブエナビスタと同じである。

 ハープスターの母の父は牝馬のファルブラヴ。種牡馬ファルブラヴの5代母は、日本のブエナビスタと同名のBuena Vista (1940年/仏)である)。

 ハープスター(父ディープインパクト)を擁する松田博資厩舎は、有力馬の2頭出しになるのだろうか。オーナーは異なるが、ハープスターも、サングレアルも同じノーザンファームの生産馬であり、異なるといってもオーナーは同系列である。ハープスターの最大のライバル=レッドリヴェールは日本ダービーに出走予定。ハープスターを嫌っただけではない。今年の牡馬相手なら好勝負だろうと判断してである。

 秋には凱旋門賞に挑戦するハープスターは、いまここでムリはしないだろうが、ひょっとするとダービーに登録するかもしれない。そうなると、ハープスターがダービーというなら、レッドリヴェールはオークスに戻らないとも限らない。高い能力があるだけに、今年の3歳牝馬の動向はまだ流動的だろう。

◆先行勢で唯一粘ったブランネージュ、オークス向きのマイネオーラム

 前後半バランスとすれば厳しい流れではないが、東京2000mを好スタートから好位のインに一度下げて抜け出し、あと1ハロンの地点では勝ったと思わせたブランネージュ(父シンボリクリスエス)も、その中身は文句なしだった。今回が9戦目になるキャリアが嫌われていたフシもあるが、オークスは流れが微妙。みんながスタミナに課題がある中で、先行力があるのは大きな強みになる。今回の上位組で先行して粘ったのはこの馬だけ。祖母コードネームは、サンデーサイレンスの後継種牡馬として世界に飛び出して成功したハットトリックの全姉である。

 3着に突っ込んできたのも、今回が9戦目になる伏兵マイネオーラム(父ステイゴールド)。半兄コスモオオゾラ(父ロージズインメイ)は、2012年の皐月賞4着、日本ダービーも0秒3差の6着だった。ハープスターの相手になりそうな伏兵探しがこのフローラSのテーマだとするとき、いかにもタフでスタミナを秘めているだろうこの牝馬は候補に浮上である。今年のフローラSはオークスに通じそうな底力が問われたのかもしれない。

 1番人気のマジックタイム(父ハーツクライ)は、直前に後藤騎手のアクシデントで若い杉原騎手に手がわりの不利はあった。しかし、もともとマジックタイムで2戦2勝の杉原騎手は、少しのミスもなくほぼ満点に近い騎乗をこなしたと見えた。前にいたブランネージュを捕まえることができず、後続に差されて6着だった。2000mでスタミナ切れする馬とは信じられないが、残念ながら完敗である。雪で日程の変更された2月18日(火)のクイーンC組は、勝ったフォーエバーモアも、2着マジックタイムも、今回出走していたニシノアカツキプレミアステイタスも、上位組はみんなあのあと不振である。偶然ではないだろう。

 注目のイサベル(父ディープインパクト)は、17番枠を引いた時点で勝負に必要な運がなかった。キャリアの浅い馬にはもまれる危険は大でも、東京の2000mでは内枠が欲しかった。レースをしたのは直線だけだから上がり34秒5に不思議はないが、勝ち馬と0秒5差の6着に突っ込んでいる。素質は申し分ない。秋にはトップに追いついてくるだろう。

 2番人気のマイネグレヴィル(父ブライアンズタイム)は、一連のレースが示すように高速の芝向きではないから、今回は仕方がない。オークスが重馬場になったときに浮上だろう。

◆現在の降着制度について

 マジックタイムに騎乗予定だった後藤浩輝騎手が、ぜひ、また元気に復帰してくれることを心から願いたい。直後にサングレアルで勝った岩田騎手のあまりに不注意すぎる斜行が原因だが、それはもちろん故意ではない。岩田騎手を非難してもはじまらない。脚が接触しなければ他のレースでも再三見られる斜行であり、最近はこれは小さなペナルティーで済むことになっている。審議も着順変更もなくなった。しかし今回は、狙ったスペースと、タイミングがあまりに悪かったとしかいいようがない。降着制度の見直しに伴って生じることが予測されていた最悪のパターンである。

 降着制度(進路の取り方)の考え方や基準を、欧米に近づけたという点で最初から踏み外しの心配があった。イギリスやフランス、ましてやアメリカに「ルールの規範」を求める時点で、根本的に考え方が間違っている危険がある。

 少しも飛躍ではなく、日本の戦争放棄の憲法理念にあこがれる人びとが、いったい世界にどれだけ多いかを知るのと同じこと。実際、理解してからは日本の降着制度を支持した他国の競馬人も多かった。降着制度を欧米に近づけたというJRAの姿勢は、尊敬する知人が多いから大きな声でいえるが、ルールに対する理念が甘いと思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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