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歴代チャンピオンに近づきつつある/天皇賞・春

  • 2014年05月05日(月) 18時00分


◆フェノーメノは絶賛できる内容

 5歳フェノーメノ(父ステイゴールド)の2連覇が達成された。さまざまな角度からみて、今後のレースの参考にしたい要素が含まれると思えるので、シビアな視点で振り返りたい。

 高速の芝コンディションが準備される近年、3分15秒1の勝ち時計は、史上7位タイではあるが、1997年のマヤノトップガンの3分14秒4(5位タイ)以外は、すべて高速の芝となった2006年以降の記録である。良馬場で行われた最近10回の勝ちタイム平均「3分15秒07」とぴったり一致する今年は、タイム面では標準そのものだったろう。

 レースの流れは、800mずつに4分すると、「49秒3-48秒3-51秒0-46秒5」となり、前後半の1600mずつは「1分37秒6-1分37秒5」のバランスである。

 高速の芝で、行く構えをみせた伏兵がいたから、最初の1ハロンも含め、全16ハロンのどこにも「13秒台」のラップがないのは、3200mの天皇賞・春史上初めてのことだった。同じ京都の菊花賞3000mでは、オルフェーヴルが勝った2011年にハロン13秒台なしの菊花賞が行われている。したがって、今回の記録はいろんな意味で比較できる。

 前後半のバランスがとれ、2周目の3コーナー手前で少しラップが落ちたくらいで(だから後続はムリなく先行馬に接近できた)、変にペース緩んだ部分はない今年は、どの馬も持てる総合能力を発揮できた可能性が高い。レースの主導権をにぎったサトノノブレス(6番人気)も、つつかれながら勝ち馬と0秒5の8着に粘っている。流れにムリがあり、破綻が生じたわけではないから、伏兵12番人気で3着に突っ込んだホッコーブレーヴ以外は、勝ち負けに加わったのはみんな候補とみられた人気上位馬ばかり。中身も非常に分かりやすいレースであり、多くの人びとが納得して受け入れなければならい3200mと思える。

 まず勝ったフェノーメノは、これは絶賛されていい。陣営が「仕上げに苦心した」という前走の日経賞から気配一変。直前に輸送してプラス10キロは、昨年と同一にも近い498キロ。本来のフェノーメノだった。昨年は、全体が「1分35秒2-1分39秒0」という難しいペースの好位で、スタミナと総合能力を問われる厳しい展開になりながら、早めにスパートして「3分14秒2」の完勝だった。スタミナを問われた厳しいペース追走だから、自身の上がりは36秒2である。

 それが今年は、みんなが無理なく追走でき、大半が自分の持ち味を発揮した中で、有力馬の中ではもっとも早めにスパートして「上がり34秒3」。自身の上がり3ハロンが約2秒も異なる内容の3200mを制したから素晴らしい。春の天皇賞3200mを「2回」制したのは、メジロマックイーン、ライスシャワー、テイエムオペラオーに続き、史上4頭目である。タイトル数は少なくとも、歴代のチャンピオン古馬に並びかけている。それにしても、種牡馬ステイゴールドの伝えるタフな底力と成長力には改めて感服である。

◆キズナはスタミナ不足の危険性、ウインバリアシオンは完成期、ゴールドシップは乗り替わりが苦しい、ホッコーブレーヴは宝塚記念でも期待

 人気で4着にとどまった4歳キズナ(父ディープインパクト)は、再度の凱旋門賞挑戦までもう負けたくはない。一段とパワーアップした成長を示したい。背負う大きな期待と、ここで秘める能力全開に近づきたい立場からすると、あくまで今回の天皇賞・春に限ってのことだが、これは絶望にも近いつらい敗北である。もう少し早めの進出が可能な位置を確保するかと思えたが、位置取りは今年のきわめて平均的なペースの3200mでは、実際には関係なかった。勝負どころを迎えた3コーナー手前で、自分のすぐ前にいたのは2着したウインバリアシオン(武幸四郎騎手)である。一歩早くスパートを開始したウインバリアシオンは上がり「34秒1」でまとめ、あと一歩の2着惜敗だった。

 キズナは続いてスパートし、記録した上がりは「34秒0」。一応ホッコーブレーヴと並びNo.1タイではあるが、届かなかったというより、直線に向いて少しモタついていたホッコーブレーヴに差し返されている。ゴール寸前の伸びはもう止まっていた印象が濃い。もっと早くスパートしていればいいという内容ではなかった。

 父ディープインパクトは、2006年の天皇賞・春で、前半の1600m通過「1分37秒7(なんと今年と同じ)」ペースを、最初はキズナと同じように後方2番手に位置し、3コーナーでスパートするとたちまち先頭に接近。自身の上がり「46秒5(推定)-33秒5-11秒3」を記録して独走、3分13秒4の大レコードだった。そのディープインパクトでさえ、凱旋門賞では最後は鈍って差され3位入線(失格)である。こと凱旋門賞というなら、昨年のキズナは、うまくスパートして(推定)上がり35秒5でまとめたが、もたつきながらも上がり35秒1(推定)の、斤量が3.5キロ重いオルフェーヴルに約2馬身も離されている。そのオルフェーヴルとて前年2着ほどの内容ではなく、5馬身差の物足りない2着完敗である。

 ロンシャンの重馬場の2400mを凱旋門賞では2分33秒台、ニエル賞では2分37秒台でがんばったキズナの、「スタミナ不足はない」という希望に、日曜日展望で半分は賛成し、半分それはスタミナのあるなしではないとしたが、残念ながら止まった今回のキズナは、スタミナを欠く危険が露呈してしまった。

 オルフェーヴルや、ディープインパクトでさえ、ゴール前では力尽きて敗戦を受け入れた凱旋門賞を、今年の現時点のキズナが、それ以上の内容で乗り切れる期待は著しく乏しくなった。あくまで陣営がこだわる凱旋門賞で快走があるとしたら、粘土質にも近いロンシャンの地盤が硬く乾き2分25秒前後になるときだろう。

 父ディープインパクトとは少し異なり、パワーあふれるタイプに成長して欲しいとまだまだ期待したいが、フェノーメノに完敗し、ウインバリアシオンとホッコーブレーヴに力負けは、自身が完調に近かっただけに苦しいものがある。これにライバル=エピファネイアのここ2戦のふがいないレース内容を重ねると、展望はさらに複雑になる。

 復活した6歳ウインバリアシオン(父ハーツクライ)は、前回の日経賞のフィニッシュの数字もそれは素晴らしかったが、今回はレース直前の突然の乗り替わりを考えると、いま、ひと回りスケールアップして迎えた待望の完成期である。これでG1競走【0-4-1-2】となった。再三の乗り替わり、騎手探しは少しも悪いことではないが、できるならコンビの騎手を確保したほうが望ましい気がする。そのときGI制覇のチャンスが訪れるだろう。

 乗り替わり、騎手と息の合ったコンビというと、ゴールドシップには、毎回の乗り替わりを受け入れなければならない難しい立場がありそうである。求められるままに、わけも分からずスタートしてゴールしようと苦戦する未勝利ならともかく、G1レースを4つも制しているチャンピオンが、いまになって毎回の乗り替わりで新しい騎手と対応しなければならないとは、陣営(オーナー)の考え方に、ゴールドシップファンとの距離ができかねない。

 今回のC.ウィリアムズ騎手は6月29日の宝塚記念当日まで短期免許期間があるから連続して騎乗できるが、秋には無理であり、まただれかを探すことになる。ゴールドシップはスタートに失敗してしまった。発走委員が指導ムチでつついたという説もあるが(これは確かではない)、最初から気分が良くなかった危険は否定できない。菊花賞が示すようになにも高速レースが合わないわけではないが、高速上がりで差し切らなければならない形は苦しい。

 伏兵ホッコーブレーヴは見事。経験の少ないGIで、キズナを差し返し、ゴールの瞬間は2着に届いたかの勢いだった。父マーベラスサンデーが宝塚記念を制したのは、5歳の初夏。その産駒はマーベラスカイザー、ネヴァブション…など、父よりもっと遅咲きである。宝塚記念はおそらく高速馬場ではない。タフなファミリーの伝える底力も味方にできるのではないかと思える。

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1948年、長野県出身、早稲田大卒。1973年に日刊競馬に入社。UHFテレビ競馬中継解説者時代から、長年に渡って独自のスタンスと多様な角度からレースを推理し、競馬を語り続ける。netkeiba.com、競馬総合チャンネルでは、土曜メインレース展望(金曜18時)、日曜メインレース展望(土曜18時)、重賞レース回顧(月曜18時)の執筆を担当。

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