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騎手会の情報発信

  • 2014年05月09日(金) 18時00分


◆精力的に広報活動をする三野孝徳さん

 最近気になっていたことに、園田・姫路競馬の兵庫県騎手会の積極的な情報発信が目立っていることがあった。その仕掛け人、三野孝徳さんに話を聞いた。三野さんは、地方通算1936勝を挙げ、昨年11月に52歳で騎手を引退。現在の肩書は「騎手会広報事業部代表」。

 三野さんは引退の1年ほど前まで、10年以上にわたって兵庫県騎手会長として騎手たちをまとめ、その先頭に立ってきた。

 現在、園田競馬では騎手ズボンに企業広告が入っているのを見かけるが、これは三野さんが騎手会長時代に実現させたこと。競馬はギャンブルという一面はあるものの、騎手はスポーツ選手。プロである以上、スポンサーがあって当然ではないか、なんらかの形で騎手にも副収入があってもいいのではないかという考えで始めたと。その広告収入は、それまでは騎手個人個人が負担していた保険料などに充てられているそうだ。

 また三野さんは、兵庫県騎手会のウェブサイト(http://www.horseracingad.com/)を立ち上げ、Facebookやツイッターなどでも情報を発信している。

「馬券の売上げがどんどんネットになっていくなかで、ファンに園田競馬を選んでいただくためには、たくさんの情報を提供していかないと、と思って始めました」

 それにしても50歳を過ぎて(と言っては失礼だが)、よくもこれほど新たなことに取り組めるものだと感心させられる。最近の若い騎手とは違い、この世代の騎手はほとんどが一般的な社会経験をすることなく競馬社会に入った。三野さんも中学を卒業してすぐに競馬学校に行って騎手になった。それゆえ、こうした活動をするにあたっては、異業種交流会などに積極的に参加して、一般の社会人と名刺交換をすることから始めたという。また馬主さんを通じていろいろな立場の人を紹介してもらうこともあるという。

 ではなぜ、騎手を引退して「騎手会広報事業部代表」に専念することになったのか。

「やりはじめたら結構反響があって。ただ騎手をやっていると外部との接触にも制限があるし、特に開催中は外部とまったくやりとりができない。年もとってだんだん乗れなくなってきたこともあって、逆にこれをやることが、馬に乗ること以上に楽しくなってきたんですね(笑)。それでは(馬券を買ってくれる)ファンに申し訳ない。それで騎手を引退して専念することにしました」

 ウェブサイトやFacebookには、騎手のプライベートな写真なども掲載されていて、ファンには好評だ。

「騎手のそういう姿を見せるのは、ファン獲得に役立つのかなと思ってやっています。騎手の素顔を写真に撮れるのは僕だけですから。それに対して主催者からいろいろ言われることもあります。県から来ている職員は役所的な考えの人もいますから。でも、今のファンが求めるものに、それでは対応できないと思うんです」

 最近では、重賞を勝った騎手のインタビューなども動画で掲載している。

「競馬場では、タレントを呼んでイベントなんかをやってますけど、ファンが求めているのは、強い馬と、強い騎手、これが一番の宣伝です」

 話を聞く中で、三野さんは「騎手の価値を高める」という言葉を何度も強調した。なるほど、それこそが三野さんが実現したいことなのだ。

「今の地方競馬の賞金体系では、騎手たちに『自分たちはスターなんだと思え』って言ってもなかなか難しい。昔、馬券が売れていたころは、たとえば1周目の直線に来ると、ファンの声援で馬が引っかかってしまうようなこともあった。それほどファンがたくさん来て、どよめきや声援が大きかった。今の若い騎手にも、そういう中で乗せてやりたい。『俺らスターなんや』って思えるような」

 三野さんの活動は、兵庫の騎手をファンに広くアピールすることのほかに、もうひとつある。それは、騎手と主催者の間に立っての交渉だ。あらためて言うまでもなく、開催中、騎手は調整ルームに閉じ込められるなど制限が多い。そうした状況で改善していくべきことなど、騎手個人が直接主催者に意見を言うのは難しいこともある。三野さんは騎手の代弁者として、主催者などとの交渉にあたる。

「騎手の権利として、今までだったら言いづらかったことが、騎手ではなくなったからこそ、主催者や調教師に言えることもあります。主催者や、すべての競馬関係者と仲良く、風通し良く、そういうパイプ役になれればいいなと思っています」

 長きに渡って騎手会長をつとめ、他の騎手からの信頼が厚い三野さんだからこそという精力的な活動だ。

地方競馬に吠える

実況の吉田勝彦アナウンサー(左)と、兵庫県騎手会広報事業部代表・三野孝徳さん(右)。開催中、三野さんは、競馬にかかわるさまざまな業務の人たちとの話し合いやコミニュケーションを欠かさない

1964年生まれ。グリーンチャンネル『地・中・海ケイバモード』解説。NAR公式サイト『ウェブハロン』、『優駿』、『週刊競馬ブック』等で記事を執筆。ドバイ、ブリーダーズC、シンガポール、香港などの国際レースにも毎年足を運ぶ。

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