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日高にて

  • 2014年05月17日(土) 12時00分


◆日高で会った松永幹夫調教師とのエピソードなど

 今週、1泊2日という慌ただしい旅だったが、久しぶりに日高で馬を見てきた。クルマを走らせていると、放牧地で寝そべったり飛び跳ねている可愛い当歳馬があちこちにいて、眺めているだけで幸せになれる。

 2日目、松永幹夫調教師にバッタリ会い、彼が管理する予定の当歳馬をチェックするところを見せてもらった。

「歩かせてもらえますか」

 と、当歳馬がまっすぐ向こうに行き、ターンして戻ってくる歩様を、真剣なまなざしで見つめている。

 47歳という実年齢より10歳以上若く見え、騎手時代とルックスも体型も話し方もほとんど変わっていない。それでも、馬に向けられる目は調教師のそれになっている。

 異状がないことを確認すると笑みを浮かべ、血統などを私に説明してくれた。

 そんな松永調教師と私が初めて話したのは、彼が騎手時代、香港で初騎乗初勝利を挙げた1991年12月半ばのことだった。23年前だ。師匠の山本正司調教師(当時)、ノースヒルズ(当時はマエコウファーム)代表の前田幸治氏らも一緒だった。

 その年の春、彼は、イソノルーブルでオークスを逃げ切り、GI初制覇を果たしていた。

「今まで、ほかの人の馬が逃げていて『遅いな』と思ったことはあっても、自分が逃げて『遅いな』と思ったのは初めてでした」

 と、後日話してくれたことを、今でもよく覚えている。

 話してくれた場所は、札幌のカレーショップの2階だった。

 あの店は今でもあるのだろうか。

 逃げ馬についてぼんやり考えていたら、イソノルーブルの走りが蘇ってきた。

 なぜ逃げ馬について考えていたかというと、先週のNHKマイルカップで、ミッキーアイルがレース史上2頭目の逃げ切り勝ちをおさめたシーンが印象的だったからだ。「サイレンススズカの再来」になるかもしれないミッキーアイルは、安田記念に向かうらしい。

 このまま順調に行けば、今年の安田記念はとてつもない豪華メンバーになる。

 まず、IFHA(国際競馬統括機関連盟)が発表した「ロンジンワールドベストレースホースランキング」で世界トップとなっているジャスタウェイ、昨年のマイルチャンピオンシップを勝ったトーセンラー、吉田勝己氏が「サラブレッドの見本のような馬」と評したワールドエース、マイラーズカップでそれに迫ったフィエロ、マイルGIを2勝しているグランプリボス、皐月賞馬ロゴタイプ、NHKマイルカップを初めて逃げ切ったカレンブラックヒル、ショウナンマイティ、エキストラエンド……などなど。さらに、ヴィクトリアマイル組からも強い馬が出てくるかもしれない。

「史上最強メンバー」と呼ぶにあたっては、出走メンバーのGI勝利数の合計や、獲得賞金の合計など、いろいろな尺度が考えられるが、今年は「印象度」という点で、そう呼ぶにふさわしい一戦になりそうだ。

 写真は、新冠のサラブレッド銀座通り沿いの放牧地にいた当歳馬である。

島田明宏

サラブレッド銀座では、この時期、かわいらしい当歳馬の姿を見ることができる


 日高ではおなじみの眺めだが、ここ数年、サラブレッドの生産牧場のほかに、牛の牧場が目立つようになってきた。数年前に聞いた話では、日高地区で、馬の数を牛の数が追い抜こうとしているとのことだったが、もう牛のほうが多くなったのだろうか。

島田明宏


 泊まったのは静内エクリプスホテルというところだった。聞き慣れない名だと思ったら、かつての静内ウエリントンホテルだった。去年の11月に新装オープンしたのだという。

 街も、人も、共存する生き物たちも姿を変えていく。

 ――そりゃそうだけどなあ。

 と、当たり前のことが、なんだかしんみり感じられた2日間だった。

島田明宏

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作家。1964年札幌生まれ。Number、優駿、うまレターほかに寄稿。著書に『誰も書かなかった武豊 決断』『消えた天才騎手 最年少ダービージョッキー・前田長吉の奇跡』(2011年度JRA賞馬事文化賞受賞作)など多数。netkeiba初出の小説『絆〜走れ奇跡の子馬〜』が2017年にドラマ化された。最新刊は競馬ミステリーシリーズ第6弾『ブリーダーズ・ロマン』。プロフィールイラストはよしだみほ画伯。バナーのポートレート撮影は桂伸也カメラマン。

関連サイト:島田明宏Web事務所

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