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競走馬需要の見通しは・・・

  • 2003年11月18日(火) 10時32分
このほど山形県上山市の上山競馬場が70年に及ぶ歴史にピリオドを打った。その最終日11月11日には平常の3倍近い3774人もの入場者を記録し、多くのファンが別れを惜しんだとのこと。折りからの悪天候にもかかわらず、首都圏などの遠方からのファンも少なくなかったという。また一つ、歴史と伝統の競馬場が姿を消してしまい何とも残念でならない。

 相次ぐ地方競馬廃止は、当然生産地にも暗い影となって投影してくる。一ヶ所の廃止は、確実にその競馬場の分だけ需要が減少することに加えモチベーションの低下も避けられない。そして「次はどこか?」という疑心暗鬼をも生み出す。現実問題として、財政難に陥る主催者が少なくないので、今や「次はどこが廃止するのか」という問題とともに「生き残れる競馬場はどこか」と考えた方がより実態に近くなっているかもしれない。生産馬の多くを主として地方競馬に送り出してきた日高の零細牧場は、今後の馬産に指針が持てなくなっている。「いったいどうなってしまうのか」という台詞は、多くの生産者に共通した偽らざる心境だろう。現在順風満帆な経営状態の生産者であっても、周囲の牧場がバタバタと倒産して行けば、当然そのあおりを受ける。よほど生産馬の競走成績が良いか、あり余る自己資金でも持っていない限り、やがては立ち行かなくなる。「補助金漬け」と手厳しく批判を受けながらも、生産者は依然として借金体質から脱却できずに今日の不況を迎えた。今後はおそらく、「馬の借金を馬で返す」ことはたぶん不可能だろう。何より生産馬の価格が著しく下落している現状を考えると、もう「普通に生産して、普通に売却する」ことなど望めぬ時代なのかもしれない。

 過日静内で行われた「オータムセール」の結果については一度この欄で触れたが、このほど届いた「JBBA・NEWS」11月号(日本軽種馬協会発行)には、同セールにおける「種付け料と売却価格比較」という興味深い一覧表が掲載されている。

 それによると、同セールで売却された204頭の1歳馬のうち、2001年度(すなわちこれらの生産馬を種付けした年である)の種付け料以下の価格帯に属する馬が46頭にも達するというのだ。更に、種付け料の1.0倍から2.0倍の価格帯には57頭いる。合わせて103頭。

 一方の対種付け料4.0倍以上の売却馬は、計39頭。ただし、そのうち29頭は種付け料が100万以下の種牡馬なので、たぶん実感としては「思ったよりずっと高く売れた」というには程遠いだろう。50万円の種付け料で200万円に売却できたとして、もちろん喜びには違いないが、果してどの程度の収益が上がっているものか。

 残念ながら、これとて「売却馬」のデーターである。主取りとなった7割500頭もの1歳馬たちにとっては更に厳しい年の瀬になるはず。

 「市場原理」で価格が決定されるのが資本主義社会の鉄則だが、それにしてもこの状態のままでは、生産地は壊滅してしまうだろう。かといって、今後は需要増など見込める道理もなく、むしろ地方競馬の廃止に比例して更なる需要の減少は避けられそうにない。

 「低コスト生産」と「強い馬作り」の相反する重い課題が我々生産者に突きつけられている。

岩手の怪物トウケイニセイの生産者。 「週刊Gallop」「日経新聞」などで 連載コラムを執筆中。1955年生まれ。

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